注目企業のトップに聞くin北海道 浦幌町から世界をつなぐ 没入体験型テクノロジーの仕掛人【フォレストデジタル株式会社】

2026年6月1日 公開

浦幌町で創業したフォレストデジタル株式会社。壁や天井に360度の映像を投影する独自技術で、没入感のある空間体験を提供している。身体に機器を装着することなく誰もが体験できる空間VR「uralaa(うらら)」は、観光や教育、エンターテインメント分野で活用が広がっている。代表取締役の辻木勇二さんに、起業に至った過去とこれから思い描く未来について伺った。
代表取締役CEO/辻木 勇二さん
東京都出身。大学では経済学を学び、卒業後は東京銀行に入行。海外インフラ事業の資金調達などに携わった後、アジア開発銀行へ出向し、ベトナムやインドネシア、フィリピンなどのインフラプロジェクトに従事。国際金融の分野でキャリアを積み、帰国後は財務省にて国際環境政策にかかわる。複数のIT企業を経て2019年にフォレストデジタル株式会社を創業。

一冊の本から芽生えた
国境を超える情熱。

東京の老舗うなぎ店の次男として生まれた辻木さんは、幼いころから家業を手伝いながら育った。父からは「好きなことを自由にやりなさい」と言われ、自分は何ができるのかを常に問い続けてきたという。高校時代に出合った一冊の本が、進路を決めるきっかけになった。
「発展途上国の南北問題について書かれた本でした。経済格差や貧困、教育などの実情に衝撃を受け、私も何か世界の役に立てる仕事がしたいと強く思うようになったのです」
大学では経済学を専攻し、地域経済や開発理論を履修。卒業後は、金融の立場から発展途上国の発展にかかわりたいと、海外プロジェクトを扱う東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行した。インドや中国にかかわる部署で大規模なインフラ事業の資金調達に携わり、将来の収益を担保に資金を供給するプロジェクトファイナンスの分野で経験を積む。国際機関での勤務を目指しアメリカの大学院に留学、34歳でアジア開発銀行に出向。ベトナムの高速道路やインドネシアの送電線整備など、国の基盤となるインフラ事業の資金計画や収益設計を担当。その後は東京銀行を退行し、アジア開発銀行の正式スタッフとしてフィリピンで約6年間勤務、キャリアを築いていった。
「世界中の業種の異なるスペシャリストたちが一つに集まって2〜4週間ほど滞在し、20〜30年単位の大規模プロジェクトを進めていく仕事環境は、自分の夢がかなったようでした。その一方で、変化が目に見えるまでに時間を要する大規模プロジェクトでは、人の暮らしの変化を直接感じにくい側面もありました」

テクノロジーの波が
新たな発想を芽吹かせた。

インターネット技術が瞬く間に全世界へ普及し世界のあり方を変えつつあったころ、辻木さんは新たな挑戦を求めて、39歳で財務省国際局へ入省。主に地球環境問題や気候変動問題に関する国際的な政策に携わった。当時、アフリカやアジアなどの発展途上国の人々が、こぞってネットカフェに集まり熱中している景色に辻木さんは衝撃を受けた。
「タイにいながらインターネットを使ってアメリカの大学の勉強をしている子たちもいるという話も聞きました。それなら、インフラ整備や政策だけでなくITの力によって、より直接的に人々の体験や価値観に影響を与えられるのではないかと考えたのです」
すぐさまIT業界へと軸足を移し、GREE(グリー)、Yahoo!(ヤフー)、メルペイといった企業で経験を積みながら、テクノロジーを使って世界をより良くする新たな事業の構想を練っていった。ヤフー在籍時には、浦幌町で地域活性化ボランティアに参加。人口減少が進む町の林業従事者の減少に対して、若い働き手を増やすための教育プログラムの提案などを行い、森林をテーマにした町おこしを通じて地域の人々との輪を広げていった。
そんな辻木さんがIT事業として考えたのが、壁や天井に映像を投影し、空間全体を包み込むような体験を提供する空間VRだ。「開発したイマーシブ空間VR『uralaa』で起業のめどがついたタイミングで、懇意にしている北村林業さんが『浦幌町で会社を作ったらどう』と声を掛けてくれたんです」
こうして信頼する仲間たちからの後押しもあり、浦幌町にフォレストデジタルが誕生した。

船頭としてかじを取り
テクノロジーの大海原を進む。

空間VR『uralaa』は、アーカイブした映像データを空間に投影できるサービスだ。その場にいなくとも森や自然に包まれる体験が可能で、近年はイベントのライブ配信と組み合わせた展開にも挑戦している。
「開発当初はリラックスをもたらすのが目的でしたが、現在はスポーツや花火のような、臨場感や熱狂を生む活用にも手応えを感じています。テレビやスマホのような平面世界を、空間そのものに変えていきたいのです」
これまでにない新しいサービスに起業当初はビジネスとして成立するのか不安視する声も多かったというが、実際に体験できる場所を作ることで理解が広がっていき、今や企業や自治体などさまざまな場所で活用されるまでになった。現在は、教育現場でもイマーシブ空間が活用され、高校生向けに林業体験プログラムを実施している。
「身体に何も付けなくても空間にいるだけで体験できるので、小さいお子さんから車椅子の方までみなさんにご利用いただけます。将来的にはカンボジアなど海外の学校での活用など、移動が難しい子どもたちにもさまざまな仕事や世界を体験できる機会を届けたいですね」
3名から始まったチームは現在15名ほどに成長したが、辻木さんは「まだ小さなボートを漕いでいる感覚」だと話す。
「スタートアップは大海の荒波の中を進む小舟。波が立てばいつ倒れてもおかしくありません。私の役割は、パーパスという旗を掲げて進むべき方向を示す船頭です。これからも、幸せを世界中に届けるというミッションを胸に、海を進んでいきたいです」

フォレストデジタル株式会社

2019年、浦幌町で創業。壁や天井に映像を投影し、空間全体を包み込む「イマーシブ空間VR」の開発・提供を行う。自然や文化、スポーツなど多様なコンテンツを没入体験として届け、企業の福利厚生やイベント、教育分野など幅広い領域で活用が広がっている。テクノロジーの力で新たな体験価値の創出を目指す。
十勝郡浦幌町常室51-1 TOKOMURO Lab

https://forestdigital.org/
UHBにて毎週火曜日深夜0時15分〜放送中!
BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。

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