人口約4000人の町から世界へ届ける木のものづくり。【株式会社山上木工】
2025年9月8日 公開
グローバル企業から故郷・津別町にUターン。
「木材の研磨・塗装の手伝いをしたり、導入したばかりの新しい機械を見せてもらったりしているうちに、将来は自分も祖父や父のようになりたいと思うようになりました。しかし父からは『田舎にいてはだめだ。外に出て好きなことをやれ』と言われていたこともあって、家業を継ぐつもりはありませんでした」
とはいえものづくりへの興味は強く、高校卒業後は東京・埼玉にキャンパスを置く芝浦工業大学工学部へ進学。素材を加工するための機械の制御・設計技術を研究し、2007年に大手工作機械メーカーであるDMG森精機株式会社に入社した。
「世界中に顧客を抱えるグローバル企業で、自動車のエンジンブロックを作る工作機械の製造を2年、設計を5年間経験させてもらい、まさに万事順調でした。しかし30歳という節目の年を目前に、ふと『今の自分なら、父の助けになれるのではないか』という思いがわき上がり、会社を辞めて津別町へ戻ることを決意しました」
ところがいざ帰郷すると、会社のホームページも作らずに、良い商品を作れば売れるという職人気質の父・裕靖さんと真っ向対立。20人ほどの小さな会社では前職でのキャリアも役に立たず、裕一朗さんは「こんなはずではなかった」と途方に暮れたという。
「今振り返ると、大手メーカーで働いてきた自負もあり、父に対して高慢な態度をとっていたと思います。父にはとうとう『出ていけ』と言われ、そこで初めて、歴史ある事業や事業者、地域へのリスペクト無しにイノベーションを起こすことはできないと気が付いたんです」
地域活性化事業と、東京五輪への挑戦。
「『OKHOTSK』『SCHOOL』『ものづくり』というキーワードを基にネーミングしました。自社ブランド『ISU-WORKS』の商品だけではなく、道内外のインテリアを展示・販売しています。施設内にキッズスペースを設けたり、子ども向けの木工体験と国際交流イベント『サマーツクール』を開催したりと、お子さまにも楽しんでもらえるような場所づくりを心掛けています」
更に同年、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の組織委員会がメダルケースの製造委託契約企業を公募しているという話が舞い込んできた。「何事もおくせず挑戦する」がモットーの裕一朗さんは迷わず応募を決めたという。
「日中の業務終了後、寝ずに試作品を作り続けました。東京都在住のプロダクトデザイナー・吉田真也さんとオンライン上でデザイン案を練って、僕が形にして、それを女満別空港から貨物専用飛行機で東京へ送って、吉田さんに見てもらう…という作業をおおよそ1カ月間何度も何度も繰り返しました。試作品数は200個くらいだったと思います」
最終的な応募作品に使用されたのは北海道産のタモ材。不屈の精神を表すため、硬度の高い木材を選んだ。大会カラーであり、「勝色」とも呼ばれる藍色に染められた木製のメダルケースは、開いた状態でも美しくディスプレイできるなど機能性も抜群。ほどなくして裕一朗さんの元には内々定の連絡が届いた。
父に認められ3代目社長に。木材の高付加価値化を目指す。
「必死にメダルケースを作り続ける僕に手を貸してくれたお陰で期日までの納品が実現しました。津別町の誇りとして地域の皆さんにも喜んでもらえたこと、そして父からも認めてもらえたことをうれしく思いました」
2024年、裕一朗さんは正式に山上木工3代目社長に就任した。代替わりをきっかけに、会社をもう一段階成長させたいと意気込む。取り組んでいるのは、これまで家具にあまり利用されてこなかった針葉樹の利活用だ。現在、北海道立総合研究機構林産試験場、北海道大学大学院農学研究院木材工学研究室と共同で研究を行っているという。
「一般的に家具には硬度の高い広葉樹を使うのですが、圧密加工と呼ばれる木材をプレスして密度を高める技術を使えば、針葉樹も硬度を上げることができます。実現すれば、道内の人工林の大半を占めるカラマツ・トドマツで家具を作ることも可能になり、さまざまな分野にも針葉樹が利用できるようになるでしょう。北海道産木材が世界のさまざまな産業で活躍される未来を目指しています」
株式会社山上木工
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
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