厄介ものを骨まで味わう。北海道発、ジビエ文化への挑戦。【株式会社旅と人】
2026年6月15日 公開

札幌出身。ミュージシャン活動を経て、飲食業の道へ。「tabibitoキッチン」の店主を営む傍ら、2023年に狩猟免許を取得し、ハンターとしても活動。2025年には壮瞥町にシカ肉処理場「奥洞爺ジビエ研究所」を開設した。狩猟から加工、提供までを一貫して手掛け、現在はシカ肉だけでなくシカ骨の活用にも取り組みながら、新たな北海道の食文化づくりを進めている。
挫折からの日本一周。
ご当地食材との出合いが転機に。
各地のグルメを食べ回る旅の途中、福島県会津で出合った料理が、後の人生につながる鍵となる。その一つが、ラーメン店の店主が運営しているライダーハウスで、宿泊者にサービスで提供していたラーメンだった。
「ラーメン屋でアルバイトしていた経験があったので、だしの材料を聞いてみたら、馬だと教えてくれたんです。その後、夕食に連れて行ってもらった居酒屋では、筋煮込みにも馬が使われていると聞きとても驚きました」
沖縄ではヤギ、別の地域ではイタドリなど、それまで食材のイメージがなかったものが、その土地では当たり前に食べられていた。ローカルならではの食文化への気付きが、後に北海道ジビエの探求へと向かう足掛かりとなる。
高校時代から多くの飲食店でアルバイトを経験していたこともあり、音楽以外の道に進むなら料理にかかわりたいと考えていた川合さん。札幌へ戻った後は、日本酒とアヒージョをコンセプトにした飲食店で経験を積み、2013年にご当地料理をコンセプトにした「tabibitoキッチン」を創業した。
狩猟、解体から見つけた
厄介もの・エゾシカの魅力。
「最初に仕入れた肉の質が良かったのもあると思いますが、実際に食べてみたら本当においしくて驚きました。それからジビエ料理に興味を持ち、メニューに少しずつ取り入れてみたんです」
数年後にはヒグマやトドなども食材として採用。まだ居酒屋でジビエを扱う店が少なかった時代「シカやクマを食べられる店」として口コミが広がり、道外客や海外観光客も訪れるようになった。
事業が軌道に乗り、店舗拡大も目前だった2019年、コロナ禍で思わぬ足止めをされてしまう。しかし川合さんは店の営業ができない時間を使ってジビエの研究を進め、ソーセージやベーコンなどの加工品開発や通販事業をスタート。この時、全国のさまざまなハンターや加工業者たちと深くかかわっていくうちに、川合さんの関心は料理だけではなく、狩猟や処理をするハンターとしての知識や加工現場にも向いていった。
「エゾシカは野生だから地域で食べている餌も違うし、それぞれ個体差がある。猟師によっても仕留め方や処理にこだわりがあって、みんな自分の『うまい』を持っている。だから、私も自分なりの『うまい』を見つけたくなったんです」
知れば知るほど、いろいろな可能性が秘められていることを感じた川合さんは、2023年に狩猟免許を取得。更に2025年、祖父母が暮らしていた壮瞥町に移住し、自宅の敷地内にシカ肉処理場「奥洞爺ジビエ研究所」を開設した。飲食店が処理場まで持つケースは珍しく、狩猟から加工、提供まで一貫して行える体制を築いた。
「もったいない」から生まれる
未来のご当地ラーメン。
「骨を捨てるのがもったいないと思っていた時に、会津で食べたラーメンを思い出したんです。ちょうど長年ラーメン屋で働いてきたスタッフがいたので、一緒に開発することにしました。多くはペットフードなどに使われるシカ骨ですが、濃厚かつ脂質が少ない良いだしが取れるんです」
試行錯誤を繰り返して完成させたのが、スープを継ぎ足しながら作る〝呼び戻し製法〟のシカ骨スープラーメン。トッピングにはシカ肉のロースやチャーシューが添えられている。2025年6月に壮瞥町にオープンした「味処 旅と人」で提供中だ。
北海道では現在もエゾシカの個体数増加と農業・森林被害が課題となっており、今後も一定数の捕獲が必要になると言われている。一方で、見方を変えれば安定した供給が見込める食材でもある。だからこそ、ただ駆除するのではなく、肉や骨を食文化として活用していくことが大切だと川合さんは考えている。
「牛タンやホルモンも、昔は一般的な食材ではなかったと思うんです。エゾシカも同じで、新しい価値を見いだして、北海道の食文化として定着させたい。そして、シカ骨ラーメンが根付いた時、『ここが元祖だよね』と言われる存在になるのが、これからの目標です」
株式会社旅と人
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
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