北海道の経営者に聞く3つの質問「転機・人・未来」 創業120年の伝統を有する蔵元、田中酒造株式会社の田中一良社長に聞いた「転機・人・未来」

2020年2月20日 公開

創業1899年。120年の伝統を有する蔵元、田中酒造株式会社。古き良き往時の風情を残す建屋の内部には最新の技術を取り込み、小樽の地酒「宝川」を守り続けています。この本道を代表する日本酒メーカーの大黒柱的存在、社長の田中一良さんに「転機」「人」「未来」について尋ねてみました。

歴史ある酒蔵から、海の向こうと未来を見据えています。

代表取締役社長/田中一良さん(62歳)
北海道小樽市出身。小樽商科大学卒業後、1980年に北陸銀行に入社。9年間の勤務の後、父親の急逝を機に四代目として家業の造り酒屋を継ぐ。その後設備の近代化や若手人材の育成など多彩な取り組みを展開、経営の再建を果たし今日に至る。北海道酒造組合の会長、日本酒造組合中央会の理事も兼任。

ご自身にとっての転機とは?銀行員から家業の造り酒屋の主になった時ですね。

最大の転機は30歳、父の急逝で家業を継ぐことになった時でしょう。当時の私は銀行員でした。幼い頃から両親の仕事を手伝わされていたこともあり、経理作業や接客応対などの銀行業務はまさに天職。その一方でニューヨーク支店への異動人員に抜擢されるなど、時期的にも順風満帆だったんです。それだけに父の訃報はさまざまな意味でショッキングな出来事でした。
いろいろ悩みましたが、銀行への就職を志望した際「家業の酒蔵のことは忘れていい」と父が背中を押してくれたことを思い出し、息子としての務めを果たそうと銀行を退職、小樽に戻りました。父の死から1年後に長く患っていた母も亡くなるのですが、両親の死に水を取ることができたことに、今では大きな満足を感じられるようになりましたね。
仕事より家族を選んだという自分の行いに関して後悔をしたことは一度もありませんが、傾きかけていた経営を再建していく道のりは、正直かなり険しかったです(笑)。

人について思うことは?ラクな仕事の方に人材が動くという最近の風潮に憂いを感じています。

とかく古いイメージが付きまとう酒造業界ですが、企業を再建していくためには若い人材の育成は欠かせないと考え、20年ほど前から今日まで、毎年地元高卒生の採用に取り組んでいます。
その際に整えた社員研修制度や運用のマニュアルは、弊社の社員としてだけではなく、一社会人としての分別や良識、豊かな人間性を備えさせる内容となっており、北海道知事賞をいただくほど周囲の評価も高いものでした。またその研修を経験した社員は現在も弊社の大切な人材として活躍してくれています。
しかし昨今の「実情と噛み合わない働き方改革」や「人手不足を背景とした働く側の意識の変化」などを見据えると、弊社の研修は現代の風潮に合わなくなっているようです。
これが仕方ないことなのか、楽な働き方を条件に仕事を選ぶことが本人の為になるのか、ひいてはこれが日本という国の正しい歩み方なのだろうか…最近はそんなことを考えることが多いですね。

酒造業界の未来とは?業界の未来を照らすキーワードは観光化と国際化です。

日本酒の需要は昭和40年を境に低下の一途をたどっています。このまま衰退していくだろうと目される酒造業界ですが、現在は新たな光明が見え始めています。
それを解くキーワードは観光化と国際化です。観光化とは酒蔵に観光客を招くこと、国際化とは海外市場をにらんだ販売戦略を立てたり外国人が好むような日本酒の開発に尽力することです。
弊社も30年前より観光客の呼び込みに力を入れており、現在年間の観光客数は20万人を超える勢い。またそのうち約30%が海外からのお客様であることから、純米酒や吟醸酒を好む外国人向けの製品作りにも取り組んでいます。さらに量販店や酒販店での小売りはせず、酒蔵に来ていただいたお客様だけに製品を提供するというビジネススタイルも弊社の安定経営を支える大きな要因でしょう。これからの酒造業界を担うのは、伝統や格式を尊重しながらも時代とともに変化と進化を繰り返す、戦略性を持った酒蔵だと思っています。

田中酒造株式会社

令和元年に創業120年を迎えた老舗酒造企業。原料である酒造好適米は100%北海道産、造る日本酒はすべて純米酒。北海道の冷涼な気候を生かし一年を通じて仕込みを貫く「四季醸造」に取り組む。酒蔵には国内外から数多くの観光客が集うほか、代表の経営手法を学びに全国の酒造経営者も足を運ぶ。
北海道小樽市色内3丁目2番5号
TEL.0134-23-0390
https://tanakashuzo.com

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