創業120年の伝統を有する蔵元、田中酒造株式会社の田中一良社長に聞いた「転機・人・未来」
2020年2月20日 公開
歴史ある酒蔵から、海の向こうと未来を見据えています。

北海道小樽市出身。小樽商科大学卒業後、1980年に北陸銀行に入社。9年間の勤務の後、父親の急逝を機に四代目として家業の造り酒屋を継ぐ。その後設備の近代化や若手人材の育成など多彩な取り組みを展開、経営の再建を果たし今日に至る。北海道酒造組合の会長、日本酒造組合中央会の理事も兼任。
ご自身にとっての転機とは?銀行員から家業の造り酒屋の主になった時ですね。
いろいろ悩みましたが、銀行への就職を志望した際「家業の酒蔵のことは忘れていい」と父が背中を押してくれたことを思い出し、息子としての務めを果たそうと銀行を退職、小樽に戻りました。父の死から1年後に長く患っていた母も亡くなるのですが、両親の死に水を取ることができたことに、今では大きな満足を感じられるようになりましたね。
仕事より家族を選んだという自分の行いに関して後悔をしたことは一度もありませんが、傾きかけていた経営を再建していく道のりは、正直かなり険しかったです(笑)。
人について思うことは?ラクな仕事の方に人材が動くという最近の風潮に憂いを感じています。
その際に整えた社員研修制度や運用のマニュアルは、弊社の社員としてだけではなく、一社会人としての分別や良識、豊かな人間性を備えさせる内容となっており、北海道知事賞をいただくほど周囲の評価も高いものでした。またその研修を経験した社員は現在も弊社の大切な人材として活躍してくれています。
しかし昨今の「実情と噛み合わない働き方改革」や「人手不足を背景とした働く側の意識の変化」などを見据えると、弊社の研修は現代の風潮に合わなくなっているようです。
これが仕方ないことなのか、楽な働き方を条件に仕事を選ぶことが本人の為になるのか、ひいてはこれが日本という国の正しい歩み方なのだろうか…最近はそんなことを考えることが多いですね。
酒造業界の未来とは?業界の未来を照らすキーワードは観光化と国際化です。
それを解くキーワードは観光化と国際化です。観光化とは酒蔵に観光客を招くこと、国際化とは海外市場をにらんだ販売戦略を立てたり外国人が好むような日本酒の開発に尽力することです。
弊社も30年前より観光客の呼び込みに力を入れており、現在年間の観光客数は20万人を超える勢い。またそのうち約30%が海外からのお客様であることから、純米酒や吟醸酒を好む外国人向けの製品作りにも取り組んでいます。さらに量販店や酒販店での小売りはせず、酒蔵に来ていただいたお客様だけに製品を提供するというビジネススタイルも弊社の安定経営を支える大きな要因でしょう。これからの酒造業界を担うのは、伝統や格式を尊重しながらも時代とともに変化と進化を繰り返す、戦略性を持った酒蔵だと思っています。
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平成7年に製造場を亀甲蔵と命名。以降、伝統と最新の酒造技術が融合する酒造り工程を見学できるようになった。
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田中酒造の日本酒は亀甲蔵や直営店などでの販売が原則。希少価値が高まるほか、価格競争に巻き込まれることもないとか。
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技術の粋を極めて製造される純米大吟醸。この一本を求めて海外から足を運ぶ観光客も。かぐわしい吟醸香が自慢。
田中酒造株式会社

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