経営危機から一転。数の子メーカーが取り組む、岩内町活性化事業。【株式会社井出商店】
2025年7月7日 公開
父の背中を追い掛けて、生産地と消費地を結ぶ仕事に。
「父はよく『離れた生産地と消費地を結びニシンや数の子を販売する事業は、数多くの工程と精巧な技術が求められる芸術のようなものだ』と言っていました。そんな父にあこがれを抱き、幼少期から漠然と、大人になったら家業の後を継ぎたいと思っていました」
文学にも興味があった敬也さんは早稲田大学第二文学部に進学したが、卒業が近付くにつれて父と同じ道を歩みたいという思いに駆られ、就職先として選んだのはやはり水産会社だった。
「ところが、いざふたを開けてみればそこは父の取引先の会社で、双方気を遣ってやりづらくなるということで内定を辞退し、三井物産林業に就職することになったんです。そこでは営業として、住宅の柱や梁などの製材を海外から輸入する業務に携わっていました。生産地と消費地の異なる商材を販売するという意味では父のやってきた仕事と変わらず、個人的には家業の後継を視野に入れた進路選択でした」
事業再建を実現した、経営の知識とスキル。
卒業後は経営コンサルティングやベンチャーキャピタルを担う会社に入社。ファンドマネージャーとして投資信託やファンドの運用を担当する中で、出資や投資に関する知識、経営計画スキルも身に着けていった。そんな敬也さんに、喜規さんからの一報が届く。
「体調を崩し、入院や治療もしなければならないので仕事を手伝ってほしいということでした。『父と仕事をするなら、これが最後のチャンスかもしれない』と思い、すぐに会社を辞めて父の経営するカリフッドに入社することを決意しました」
幸い喜規さんの病状は快方へ向かったものの、昔ながらの経営方針を続けることへの不安を感じていた敬也さんは、2007年、株式会社井出商店を設立して通信販売事業をスタート。悪い予感は的中し、ほどなくして経営は難航。敬也さんは喜規さんに代わって社長に就任し、会社を立て直すことを決めた。
「まずは商品の卸先を、市場から量販店に切り替えることにしました。大型スーパーなどに直接電話をかけて交渉し、地道に販路を拡大していきました。また通信販売事業を強化したり、ディスカウントストアにも採用してもらえるよう掛け合ったりと、地道な営業活動で売り上げが少しずつ伸びていったんです。『井出さんの息子さん?』と声を掛けていただくことも多く、黒字化が実現したのは父が多くの方から信頼を得ていたお陰でもあると思っています」
事業拡大と共に生まれた岩内町活性化プロジェクト。
「都市部のオフィスではリモートワークが行われていたようですが、地方の工場ではそうはいきません。感染におびえながらも、コロナ禍以前と同様の環境で商品を製造し続けることしかできなかったんです。地域を見渡せば廃業に追い込まれる企業も増えていました。10年間にわたり岩内町で稼働してきた地元の工場として、もっと地域に根付き、地域全体のためになることをしたいと思い、立ち上げたのが地域活性化事業『岩内プロジェクト』でした」
プロジェクトではニシンから作った“しめ粕”を肥料として利用し、それによって育てた農産品を販売したり、都市部の子ども食堂に提供したりするなど、地域を巻き込んだ事業を展開。岩内町の経済活性や雇用創出に貢献していった。
「インバウンドでにぎわうニセコ経済圏とのかかわりを深めたいと考え、2024年2月には岩内町内に地場の海産物や加工品の販売店、それに併設する漁師料理の食堂『IWANAI BANYA 魚希』もオープンしました。ニセコへのケータリングや、バスの送迎サービスなども行っています。店内は岩内町をはじめ、後志地方を知ってもらうためのショールームのようなデザインでありながら、地元の人たちにも気軽に立ち寄ってもらえるよう工夫して運営しています」
「会社はどれだけ儲けたかではなく、何を残したかが大切だ」と強調する敬也さん。会社員人生の総仕上げとして、地域と共に歩む企業と次世代を担う人材を育て、多くの国からニシン・数の子の供給が継続される世界を作っていきたいと語った。
株式会社井出商店
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
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