縄文土器・土偶作りで障がいのある方には生きがいを、社会には偏見をなくしたい。【障がい者就労支援事業所 いるば28】
2024年10月28日 公開
まるで発掘現場のように縄文土器や土偶がズラリと並ぶのは「障がい者就労支援事業所 いるば28」。すべて利用者が手作りした作品で、その完成度の高さやユニークな取り組みで全国的にも注目を浴びています。所長の田村健さんに、縄文土器・土偶の製作を始めたきっかけや、活動を通じて伝えたい思いについて、お話を伺いました。
北大からの依頼を機に縄文土器・土偶作りへ
「いるば28」を運営するのは、医療法人社団大藏会札幌佐藤病院グループ。所長の田村さんはもともと陶芸作家として、精神疾患を持つ人へ陶芸を教える活動に取り組んでいました。物作りを通して障がいを抱える人々が元気になる様子を見て心が突き動かされ、作業療法士になることを決意。陶芸の仕事をしながら夜間の専門学校に通い、作業療法士の国家資格を取得し札幌佐藤病院に入職しました。
職員となった後の2018年、精神障がいを持つ人の就労の場を作ろうと立ち上げたのが「いるば28」です。当初はお皿やカップなど、一般的な陶器作りに取り組んでいたそうですがある時、一風変わった依頼話が舞い込みます。
「北海道大学から『北大式土器のレプリカを作れないか』という相談でした」。北大では構内から多数の縄文土器が発掘されていて、その展示を大学内の総合博物館で計画中。期間中のショップで販売するレプリカを作りたいと言います。「しかも、展示の目玉である『北大式土器』のレプリカにタピオカミルクティーを入れた『タピ土器』として販売したいというユニークなもので…聞いた瞬間に『これだ!』と(笑)」
こうして2019年7月「K39:考古学からみた北大キャンパスの5000年」が開催されると「タピ土器」はSNSを中心に話題が巻き起こり、連日長蛇の列ができるほどのにぎわいに。会期中の2カ月間で、なんと3000個も売れたそうです。
「連日製造が追いつかないほどの大変さでした。ですが、メンバーたちは世間から注目を集めたことや来場客から褒められたことを喜んでいて、私自身も作家人生の中でこれほど人から喜ばれ、求められたことは初めての経験でした。世の中が求めている物作りでメンバーを元気にしたい、そう実感して土器・土偶作りを続けることにしたんです」
職員となった後の2018年、精神障がいを持つ人の就労の場を作ろうと立ち上げたのが「いるば28」です。当初はお皿やカップなど、一般的な陶器作りに取り組んでいたそうですがある時、一風変わった依頼話が舞い込みます。
「北海道大学から『北大式土器のレプリカを作れないか』という相談でした」。北大では構内から多数の縄文土器が発掘されていて、その展示を大学内の総合博物館で計画中。期間中のショップで販売するレプリカを作りたいと言います。「しかも、展示の目玉である『北大式土器』のレプリカにタピオカミルクティーを入れた『タピ土器』として販売したいというユニークなもので…聞いた瞬間に『これだ!』と(笑)」
こうして2019年7月「K39:考古学からみた北大キャンパスの5000年」が開催されると「タピ土器」はSNSを中心に話題が巻き起こり、連日長蛇の列ができるほどのにぎわいに。会期中の2カ月間で、なんと3000個も売れたそうです。
「連日製造が追いつかないほどの大変さでした。ですが、メンバーたちは世間から注目を集めたことや来場客から褒められたことを喜んでいて、私自身も作家人生の中でこれほど人から喜ばれ、求められたことは初めての経験でした。世の中が求めている物作りでメンバーを元気にしたい、そう実感して土器・土偶作りを続けることにしたんです」
縄文土器・土偶作りが育んでくれる自信と成長
「いるば28」の利用者は30代から80代の20人前後。9割が統合失調症などの精神疾患を抱えていて、障がいの影響で幻聴が聞こえたり、自分に自信がない人も多いといいます。
「手を動かすことで症状が和らぐのも作業療法の効果の一つです。縄文土器・土偶作りはろくろなどの専門道具を必要としないのでハードルが低い一方、装飾が非常に細かいため集中力を要します。精神障がいを抱える方のリハビリにはピッタリなんです」
実際、利用者の中には製作を通じて元気を取り戻していく方も少なくありません。中でも田村さんが特に印象的だと話すのが、現在40代のサトウタイキさんの成長ぶりです。通い始めた当初はほとんど人と目も合わせられず、言葉を発することも少なかったそうですが、祈るような姿をした「合掌土偶」を作り始めると夢中になり、次々と精巧な作品を作るように。周囲から評価を受けたことで自信を持ちはじめ、気付けばムードメーカー的存在になっていきました。更に、3年ほど前には「本物の合掌土偶に会いに青森に行きたい」と夢を語り出したそう。
「彼は20代のころに統合失調症を発症して以来、恐怖心で公共交通機関に乗れませんでした。そんな彼が縄文と出合い、フェリーに乗りたいだなんて…なんてドラマチックな出来事だろうと感激しました」
3年かけて少しずつお金を貯めていったサトウさんは今年4月、田村さんと共に念願の対面を果たすことができました。
「本物の合掌土偶と対面した彼は、じっと無言で見つめながら何周も何周も観察していたことが印象的です。でも、本人は感動以上にディティールの違いに気付いたようで、感想を聞くと『早く札幌に帰って、製作したい』と話してました(笑)」
「手を動かすことで症状が和らぐのも作業療法の効果の一つです。縄文土器・土偶作りはろくろなどの専門道具を必要としないのでハードルが低い一方、装飾が非常に細かいため集中力を要します。精神障がいを抱える方のリハビリにはピッタリなんです」
実際、利用者の中には製作を通じて元気を取り戻していく方も少なくありません。中でも田村さんが特に印象的だと話すのが、現在40代のサトウタイキさんの成長ぶりです。通い始めた当初はほとんど人と目も合わせられず、言葉を発することも少なかったそうですが、祈るような姿をした「合掌土偶」を作り始めると夢中になり、次々と精巧な作品を作るように。周囲から評価を受けたことで自信を持ちはじめ、気付けばムードメーカー的存在になっていきました。更に、3年ほど前には「本物の合掌土偶に会いに青森に行きたい」と夢を語り出したそう。
「彼は20代のころに統合失調症を発症して以来、恐怖心で公共交通機関に乗れませんでした。そんな彼が縄文と出合い、フェリーに乗りたいだなんて…なんてドラマチックな出来事だろうと感激しました」
3年かけて少しずつお金を貯めていったサトウさんは今年4月、田村さんと共に念願の対面を果たすことができました。
「本物の合掌土偶と対面した彼は、じっと無言で見つめながら何周も何周も観察していたことが印象的です。でも、本人は感動以上にディティールの違いに気付いたようで、感想を聞くと『早く札幌に帰って、製作したい』と話してました(笑)」
外部との交流を通じて偏見のない社会を作りたい
2021年に行われた世界遺産登録記念セレモニーでは展示を行ったり、今年9月には大阪で販売会を開くなど、全国的にも知名度が向上している「いるば28」。利用者たちの活動は施設内にとどまらず、自らが販売や出展の会場に立ったり、小学校での出張授業を行ったりと、積極的に外部と交流をはかっています。その目的は「偏見をなくすこと」にあると田村さん。
「ある小学校で『精神障がいを持つ人ってどう思う?』と聞くと、当初はみんな怖がっていたんです。ですが実際に授業をしてもらうと、どの生徒も『怖くなかった』と答えてくれて、役目を果たす事ができたとうれしい気持ちになりました。実は販売や展示の機会でも精神障がいを持つ人が作っていることは前面に出していません。『障がいがあるんだ』と後で明かすことで、障がいの有無にかかわらず活躍できることを示したいんです」
世間でじわじわとブームが広がる縄文文化。田村さんはその魅力を「謎が多く、正解がない世界」と続けます。
「誰が何のために作ったのか、形も何なのか分からないものが多い、だからこそみんなが自由に解釈していいものなんです。人を『こうだ』と決め付けないという考えが根底にあるからこそ、メンバーのみんなも魅力を感じているのだと思います。障がいがあるからって、全くできないことなんてない、自由に生きて良い、そんな事を縄文が教えてくれるんです」
「ある小学校で『精神障がいを持つ人ってどう思う?』と聞くと、当初はみんな怖がっていたんです。ですが実際に授業をしてもらうと、どの生徒も『怖くなかった』と答えてくれて、役目を果たす事ができたとうれしい気持ちになりました。実は販売や展示の機会でも精神障がいを持つ人が作っていることは前面に出していません。『障がいがあるんだ』と後で明かすことで、障がいの有無にかかわらず活躍できることを示したいんです」
世間でじわじわとブームが広がる縄文文化。田村さんはその魅力を「謎が多く、正解がない世界」と続けます。
「誰が何のために作ったのか、形も何なのか分からないものが多い、だからこそみんなが自由に解釈していいものなんです。人を『こうだ』と決め付けないという考えが根底にあるからこそ、メンバーのみんなも魅力を感じているのだと思います。障がいがあるからって、全くできないことなんてない、自由に生きて良い、そんな事を縄文が教えてくれるんです」
障がい者就労支援事業所
いるば28
医療法人社団大藏会札幌佐藤病院グループが運営する就労支援事業所。縄文土器・土偶の製作を通じて、障がい者の自立支援と社会参加を促進している。土偶が作れるワークショップも随時開催(要問い合わせ)
北海道ビジネスニュース
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