注目企業のトップに聞くin北海道 法や規則だけでは守れない人々のためにサービスを提供していきたい。【株式会社タカノヘルスケア】

2022年11月7日 公開

東京と札幌で介護事業を展開する株式会社タカノヘルスケア。運営する施設はショートステイやデイサービス事業所ですが、多くの拠点で宿泊できる、いわゆる「お泊まり付デイサービス」を展開しています。北海道エリアマネージャーの田畑さんに詳しいお話を伺いました。
営業部長・北海道エリアマネージャー/田畑かおりさん
札幌生まれ。東京の体育系大学を卒業後、大手社会福祉法人の事務職として勤務。一度は介護業界から離れるも、グループホームの立ち上げにもかかわる。2012年、タカノヘルスケアが札幌に拠点を開くにあたり入社し、現在までエリアマネージャーを務めている。

ジレンマを抱えた「お泊まり付き」という形態。

事業所を設立した経緯は?
弊社の母体は函館にある株式会社道水です。水産物の卸売、加工、養殖を主力に、不動産や貿易など非常に幅広い事業を展開しています。介護事業に乗り出した理由は、営利企業としての多角化だけでなく、社会に貢献したいという思いがあり、2007年に設立しました。

「お泊まり付」はもともと国での法整備がない中で生まれたサービス。批判的な文脈で語られることも多いですよね。
さまざまな事情を抱えながらも、入居系施設に入れない方々のために民間で始まったサービスです。こうした事情から「無届け老人ホーム」のように語られがちではありますが、きちんと自治体からの許可も得ています。

利用者にとっては保険適用外、事業者は介護報酬が発生しないという矛盾も。
希望者にとっては利用しにくく、事業者としても利益につながりにくいというジレンマを抱えているのが実情です。当事業所の場合、グループホームと同等の価格を設定し、1泊1000円で運営していますが、母体となる企業があり、営利目的よりも社会貢献という意識のため継続できている側面も否めません。かつて無届け老人ホームで悲惨な火災事故が起きたことを教訓として法整備が進み、消防設備や定員の策定が義務付けられました。しかし、スプリンクラーの設置費用に補助金などはありません。小規模な事業所の多くが、閉鎖せざるを得ない状況になったのも事実です。

認知症患者とその家族にとって〝駆け込み寺〟として機能。

どのような方が利用されているのでしょうか
認知症の方が100%です。在宅介護をあきらめたくない利用者様やそのご家族からの要望で受け入れを行っています。基本的には生活リハビリを中心としたデイサービスがメインですので、症状の改善が見られた場合には自宅に戻っていただきます。
また、ご家族の冠婚葬祭や出張といった際に、ショートステイのように利用される方も多いです。認知症の度合いによっては、自宅での介護が負担というご家族もいます。定員は1日10名のうち「お泊まり」は法令に従い5名ですが、それ以上にニーズが高いのが実情です。

認知症の方が多い背景は
認知症の方を入居系施設に入れようにも、施設に空きが無い、要介護認定が足りないなどの事情で入居させられない場合は、デイサービスを利用するしかありません。しかし、デイサービス事業所の多くは午前10時から午後3時までのサービス提供なので、この時間帯では、ご家族は仕事との両立が難しいです。「お泊まり付」では、リハビリと並行して介護も提供し、こうした事情に対応しています。そのため認知症介護にあたるご家族にとっての、言わば〝駆け込み寺〟となっているんです。

「できない」仕組みよりも、「できる」仕組みを考える。

人手不足や働き手の負担は、どう解消をしていますか?
デイサービスの提供には資格が不要ですので、無資格、未経験者を積極的に採用しています。一方、資格があればより質の高いサービスが提供できるので、入職後に資格取得を支援しています。

最近では無資格者が人材不足解消の切り札だと注目されていますね
送迎といった比較的短時間で、働き手の負担の少ない業務などには非常に有効です。また、認知症ケアには先入観や固定観念のない方が有効だと、日々実感しています。私のように長くこの業界に身を置いていると「あれもダメ、これもダメ」と考えがちですからね。

例えばどんな時でしょうか?
以前「海に行きたい」という利用者様がいました。私は話を聞いてすぐに反対しましたが、無資格・未経験で入職したある職員が、利用者様のためにどうしても実行したいと申し出たんです。そして実現可能な方法を一生懸命に考え、ご家族や医師とも交渉し、実現することができました。楽しい思い出づくりができたと、ご家族から感謝のお言葉もいただきましたし、何より利用者様の喜んだ表情は、私たちにとっても忘れられない体験となりました。
もちろん命や健康にかかわることは簡単に許可できません。しかし、「できない」ではなく「できる」方法を考える、その大切さを職員から教わった出来事でした。

他にどのようなサービスを心掛けていますか?
個々のケアプランを精査して、よりよい計画が浮かぶ時には積極的にケアマネージャーに提案しています。
かつて、重い認知症で、ご家族に暴力を振るう利用者様がいたんです。私たちはつぶさに観察し、交流を重ね、新たなケアプランを提案・実行しました。その結果、利用者様の症状が大幅に改善、ご家族との関係も良好に変化し「再び一緒に暮らせるなんて」と涙を流し喜んでおられました。もちろん、ケアマネージャーが策定したプランも素晴らしいものですが、現場で日々利用者様と接する私たちも、より良い介護ができるよう常に計画を考え、提案する力も必要だと考えています。

「お泊まり付」は今後も続けるご予定ですか
よくボランティアの方などが言うように、「無くなる事が目的」という性質のサービスではあると思います。しかし、現状では法や規則といったシステムから漏れてしまう人がいる限り、無くてはならない存在なのだと感じています。これからも地域に根差し、高齢者の「できる」を増やすため、尽力していきたいと思います。

株式会社タカノヘルスケア
デイサービス手稲

2015年に設立したお泊まり付デイサービス施設。生活リハビリを中心にアットホームなサービスを提供している。
北海道札幌市手稲区前田8条17丁目9-12
TEL.011-699-7400
https://www.dohsui.co.jp/takanohc

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