注目企業のトップに聞くin北海道 オリンピックでの経験を糧に地域の人々が健康に暮らす「選手村」をつくりたい。【株式会社two.seven】

2022年10月24日 公開

元スピードスケート選手の清水宏保さんと言えば、1998年の長野五輪金メダル、2002年のソルトレークシティ五輪銀メダルと、日本のスポーツ史に名を残したトップアスリート。引退した現在は出身地である北海道の地で、介護事業所やリハビリテーション施設、フィットネスジムを運営する株式会社two.sevenを立ち上げ、実業家として第一線を駆け続けています。起業のきっかけや事業についてお話を伺いました。
代表取締役/清水宏保さん
1974年北海道帯広市生まれ。気管支ぜんそくの治療のため幼少期からスピードスケートを開始。1994年リレハンメル五輪から4大会連続出場、1998年長野五輪で金メダルと銅メダル、2002年ソルトレークシティ五輪で銀メダルを獲得した。2010年、引退後に株式会社two.sevenを設立。

トップアスリートから〝一転〟低調な滑り出しだった起業。

起業のきっかけを教えてください。
引退する数年前からセカンドキャリアについて考えており、引退翌年の2010年に会社を設立しました。当初はサプリメントや天然水などの販売事業をスタートしましたが、その滑り出しは低調そのものでした。プライベートでは離婚も経験するなど、選手時代の成功とは一転して失敗ばかりが続きました。

アスリートの引退後と言えば、解説者や指導者になるイメージですが?
もちろん競技とかかわりを持ち続けたいという思いはありました。しかし、誰も挑戦したことがないセカンドキャリアを実践し、今度はビジネスのフィールドで功績を築きたいと思ったのです。従来の解説者や指導者以外の道筋も、自らが開拓していきたい。そんな思いが勝っていました。

転機となったのは?
幼少期に気管支ぜんそくになり、亡き父の勧めでスケートを始めました。現役中も治療しながら、同じ病気に悩む人やその家族に向けて啓蒙活動を行ってきたのです。そしてビジネスを見つける転機となったのも同じぜんそくでした。ある日登壇した講演会で、医療関係の方から「医療ビジネスを学んでみては」と助言をいただいたんです。医療とスポーツを組み合わせた分野であれば、ぜんそくとアスリートというそれまで生涯向き合ってきた経験を活用できるかもしれない。そんな考えで、2011年、日本大学の大学院グローバル・ビジネス研究科(ビジネススクール)へ入学しました。

どんな経験を経て、リハビリや介護の道へ進んだのでしょう?
入学後にさまざまな医療現場を視察しました。その中でリハビリテーション施設を見学すると、現役時代に見慣れた光景が広がっていたんです。アスリートにけがや故障は付き物です。私も現役中は何度も危機に見舞われ、その度にリハビリを通じて立ち上がってきました。この分野であれば自分の経験や知識を発揮できる、そう確信を得たんです。

信頼できる仲間と共に、ビジネスを軌道に。

ビジネス感覚はどうやって身に付けましたか?
大きな転機となったのは、現在弊社の専務取締役を務める早川と大学院で出会ったことです。彼は大病院の運営に携わりながら、スキルアップを目指して医療経営について学んでいました。その志もさることながら、私と同じくスポーツ経験も長く、人柄も誠実です。すぐに意気投合し、北海道で一緒にビジネスをやらないかと声を掛けました。
しかし、彼は関西出身で当時は横浜に在住し、北海道には縁もゆかりもありません。おまけにビジネス経験に乏しい私に命運を任せるなど、彼から見ればギャンブルに他なりませんよね(笑)。当然ながら、なかなか首を縦に振りませんでした。

大学院を出た後は?
2013年の修了後、徐々に生活の拠点をずらしながら、札幌駅の近くに整骨院を開業しました(現在は譲渡)。2014年に札幌に転居し、最初のリハビリ型通所介護施設を開設しました。

整骨院でのリハビリから、高齢者介護にシフトしたんですね
アスリートである私はけがや故障をリハビリで克服してきましたが、高齢者となると同じようにはいきません。中には骨折やけがを機に施設に入りっぱなしになり、社会から孤立してしまうという方も少なくないはず。しかし、自らの足で歩み、外に出られる、ただそれだけで人生は大きく変わる。私の経験を生かし、誰もが自分の人生を取り戻す、その手助けをしたいと思ったんです。

介護サービスの開始にあたり、苦労した点は?
サービスの提供を行うにしても、従業員を集めるにしても、法人としての信用を得なければなりません。自らが表に出て丁寧な説明を行ったり、求人を出したりといった地道な活動が必要でした。また早期からより良いサービスを目指すために経験者の採用にも力を注いできました。

「選手村」をヒントに、総合的な地域医療を展開。

現在は幅広い施設や事業を展開していますね
リハビリ型通所介護施設に加え、訪問介護サービス、サービス付き高齢者住宅、スポーツジムなどを展開しています。中でも介護事業は利用者様やご家族から「元気になれる」という声をいただけることも多く、うれしい限りです。会社全体の収益も毎年20%ずつ増加と、順調に成長を遂げています。

法人のビジョンを「すべての世代が健康に暮らせる『街』をつくる」と掲げていますね
私が「街」のヒントとしたのは、オリンピックの際につくられる選手村や東京にあるハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)の存在です。いずれも障がいを持つ人が不自由なく利用できる施設や医療設備、リハビリ施設、最新のスポーツ医療を実践できる場など、すべてが揃っている拠点です。同じ発想をアスリートだけでなくすべての地域の方に解放し、スポーツ医療を軸にあらゆる人が住みやすく、健康で暮らせる街を作りたいと着想しました。

まさに、国や介護業界が現在進めようとしている、地域医療や地域包括ケアの実現ですね
北海道は介護報酬が全国で最小です。加えて、私たちのようなデイサービスや訪問介護を提供するにあたっては、雪も大きな障害です。しかし課題が多い分だけ、大きな可能性も秘めている。北海道独自の介護のあり方をここで実証し、全国へと広げ、活用していく。北海道は、そんなポテンシャルも秘めていると、確信しているんです。

株式会社two.seven

「トータル・ヘルス・コンシェルジュ」を掲げリハビリ型通所介護施設「リボンリハビリセンター」やリハビリ対応訪問看護ステーション、サービス付き高齢者向け住宅のほか、フィットネススタジオ「TWO SEVEN BODY」を運営。社員は100名を超える。社名は清水代表が現役時代、勝利する試合の前日に必ず2時27分に目を覚ましていたことに由来。
北海道札幌市中央区宮の森1条6丁目2-15
http://27complete.jp/

注目企業のトップに聞くin北海道

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