注目企業のトップに聞くin北海道 明治から函館と共に歩む五島軒。変化し続ける老舗のこれから。【株式会社五島軒】

2024年8月26日 公開

明治時代に函館で開業した小さな洋食店をルーツに、今年で創業145周年を迎える株式会社五島軒。現在はレストラン運営の他、レトルトカレーや冷凍ケーキなどの製造・販売にも携わっている。5代目社長を務める若山さんに後継を決意したきっかけや、道民なら誰もが知る「函館カレー」のリニューアル秘話、今後の展望を伺った。
代表取締役社長/若山 豪さん
函館市出身。高校卒業後は大学進学のため上京。文学部哲学科を卒業し、大手物流企業へ就職。5年間の就業経験を積んだ後、2011年五島軒に入社。製造企画開発室長、取締役事業部長を経て2019年、専務に就任。コロナ禍での経営効率化・人材再配置への取り組みが認められ2021年8月、5代目社長に就任。

後継の決意は、亡き祖父からのバトン。

「五島軒の息子」として函館で生まれ育った若山さん。幼いながらも周囲の期待を察して家業を継ぐことを考えているような子どもで、幼稚園を卒園するころには既に「五島軒の社長になること」が将来の夢だったと振り返る。
「でも高校生になって実際に進路を考えはじめると葛藤が生まれるようになり、このまま決まった道を走りたくないという気持ちも芽生えてきました」

高校卒業後は東京の大学へと進学。反発心から小説家を志していたこともあり、あえて経済学部ではなく文学部哲学科を選んだ。
「それでも、卒業を控えていよいよ就職を考えた時、やはり後継ぎであることから目をそらせなくなりました。とはいえ家業は中小企業ですから、せめて大企業の経営を直に学びたいという思いで、すぐには帰郷せず兵庫県の大手物流企業に入社しました」

その後、4年間はコンテナ船のターミナルで通関業務などに携わっていた若山さん。しかし、祖父が亡くなる直前のやりとりをきっかけに五島軒への入社を決意したという。
「入院していた祖父を見舞ったときのことでした。寝たきりになり、意識もない祖父を前にいたたまれない気持ちになって、思わず『五島軒のことは心配しないで』と声を掛けたんです。すると祖父は突然目を見開いてガッツポーズ。間もなく息を引き取ったのですが、自分にバトンを渡されたような気がして、翌年の2011年から五島軒の社員として働き始めました」

コロナ禍の起爆剤に。新社長としての取り組み。

五島軒に入社した若山さんはまず、基幹事業であるレトルトカレーやケーキの製造に従事した。それから約10年間、商品の品質管理や営業までさまざまな業務を経験したという。
「2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大によって、飲食店は営業ができなくなってしまいました。レストラン事業部は大打撃です。観光客も来なくなり、お土産品としてレトルトカレーを買う人も激減し、業績はどん底に落ち込みました。そんな状況で、経営改善や人員の再配置に取り組むなか、何か新しいことをしようと打ち出されたのが、2021年の社長交代でした。僕は言わば、会社の気運を高める起爆剤として代表に就任したわけです」

巣ごもり需要が高まり、程なくしてレトルトカレーや冷凍ケーキの売り上げは回復していったが、会社全体の経営としては見通しが立たない状況が続いていた。若山さんは新社長として新たな提案を打ち出していく。
「1879年創業の弊社は、今年で創業145周年という歴史を持つ、いわゆる老舗企業です。時代の流れに合わせて変化し続けてきたとはいえ、より歴史を重んじる企業でありたい。まずは形からということで、函館に西洋文化が入ってきた当時の、開港錦絵をモチーフにしたパッケージに一新したんです」

一方で、歴史を重んじることを重視しながらも、同じものを作り続けるばかりでは事業を継続していくことはできないという。
「時代によって、味のトレンドは変わります。今おいしいと言われているものが、10年先もおいしいと言われているかどうかは分からない。今のお客さまにおいしいと思っていただけるものを作り続けること、変化し続けることこそ、長く愛される秘訣です。『明治時代のカレーを今食べても、おいしくはないはずだ』と亡き祖父もよく口にしていたのを覚えています」

生き残るための変化。市民の声が生んだ新たな味。

お客様の声を取り入れながら、変化を続ける五島軒。つい最近も大きな出来事があったと若山さんは振り返る。
「2023年に函館市内の高校で、SDGsをテーマに出前授業を複数回にわたって開催したんです。そこで高校生から『地元の特産物である函館産真昆布を守っていきたい』という意見が多数出たことから、真昆布出汁を使ったカレーの試作品を弊社で準備しました。従来のビーフブイヨンベースのものと比較してどちらがおいしいかアンケートを取ったら、圧倒的に真昆布出汁のカレーが人気だったんです」

高校生とのコラボレーションで生まれた真昆布出汁のカレーは期間限定商品として販売した。売上げが好調だったことから、2024年7月から五島軒定番商品の「函館カレー」にも真昆布出汁をブレンドすることを決めた。「函館カレー」は日経新聞社が購買データを基に選出する「日経POSセレクション・レトルトカレー部門」の売り上げ第一位を誇る、五島軒の看板商品だ。
「てこ入れするのは勇気がいりましたが、今の人にはこの味が好まれているのだということと、真昆布を育てている地元の漁師さんの手助けにもなるのではないかという思いで、レシピを変更することにしました」

そこには「地域があってこその企業だ」という若山さんの思いがあった。北海道は多くの市町村で人口減少が問題視されているが、函館市も例に漏れず、いかに減少を食い止めるかが最優先課題になっている。
「そんな現状だからこそ、地元企業や地域住民とも手を取り合って、一歩ずつ進んでいきたい。明治時代から長きにわたり地域のみなさまに支えられてきたからこそ、これからも函館のまちと共に歩む企業でありたいと考えています」

株式会社五島軒

1879年に函館市で創業。当初は在留外国人にパンや西洋料理を収める小さな洋食店だったが、現在は数々の洋食メニューを提供するレストラン雪河亭として地域住民や観光客に愛され続けている。自社工場でレトルトカレーやスイーツを製造し販売する他、函館市内ではカフェやベーカリーも展開。名物のカレーは五稜郭タワーや新千歳空港でも味わうことができる。
北海道函館市末広町4-5
https://gotoken1879.jp
TEL.0138‐23‐1100
BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
UHBにて毎週火曜日深夜0時25分〜放送中!

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