酒造りでまちづくり。「地域創生蔵」を全国へ。【上川大雪酒造株式会社】
2024年7月15日 公開
逆境に燃えるボート乗り。漕ぎ出したのは脱サラ街道。
「毎回5時に起きてまずは朝練、大学の講義の後ももちろん部活で、そのまま合宿所に泊まる生活でした。厳しい環境に身を置いて、自分を試したいという気持ちが強かったので、就職先もあえて激務と噂されていた大手証券会社へ。周囲には反対されましたが、反対されると燃えるタチなんです」
札幌勤務だった塚原さんは、26歳で三重県四日市市へ異動になった。慣れない土地でハードな業務をこなす中、心のよりどころとして訪れていた一軒のバー。ここで出会ったマスター中村泰三さんが、後に塚原さんを酒造りの道へと導くキーパーソンになる。
「マスターとは年齢も近く、すぐに仲良くなりました。僕は毎日のように店に通う常連客。とはいえこの時はまだ自分が脱サラするとか、将来酒蔵を建てることになるなんて考えてもみませんでした」
そのうち塚原さんは転職をきっかけに北海道に戻り、中村さんとは疎遠に。酒造りとは無縁の、化粧品メーカーの営業として働いていたという。
「ある時、北海道出身のフレンチの巨匠、三國清三シェフから『上川町からレストランを開きたいと相談を受けたので、打ち合わせに同席してもらえないか』という連絡を受けたんです。興味本位でついて行き、お話に相づちを打っていたら、そのまま僕がレストラン経営のための会社を立ち上げる流れになったんです」
おそらく三國シェフも、商学を学び、証券会社での経験もある塚原さんを見込んで声を掛けたのだろう。そんなシェフの信頼に応えたいという気持ちも後押しし、2012年、塚原さんは株式会社三國プランニングを設立。上川町にレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」をオープンした。
運命の再会から酒造りの道へ。ゼロから建てた酒蔵。
「僕は40代、マスターは50歳目前で、20年ぶりの再会でした。脱サラして自転車操業だと泣き言をこぼしながら酒を飲んで、また会おうと言って笑顔で別れて…そうしたら後日マスターが、本当に上川町まで遊びにきてくれたんです」
上川町の美しい自然景観を前に、「こんな場所で酒が造れたらいいのに」と呟いたマスター。塚原さんが真意を問うと、マスターの実家が営む休業中の酒蔵を使い、上川でお酒を造ってはどうかという話だった。
「その時、僕の会社で酒蔵を後継することを決意しました。日本酒の仕込みは冬が中心のため、閑散期に最適な事業にもなりうるという考えもありました。それにしてもまず、酒蔵を継ぐためには酒造免許を移転しなければなりません。国税局にとっても前代未聞の長距離移転だったようですが、なんとか許可が下りました」
更に直面したのは酒蔵の建設資金をどうするかという問題だ。
「どうしようもなくて、家族にも相談せずに生命保険を解約して、返戻金を元に酒蔵を建設する決心をしました。ブルドーザーが来て建設が始まった瞬間『もう後戻りはできない』と恐怖で震えたのを今でも覚えています。多くの知人や友人から反対されましたが、僕はまたしても逆境に燃えて、酒蔵建設に踏み切ったんです」
酒造りとまちづくりを伝える、「地域創生蔵」を造りたい。
「宣伝広告費もなかったので、商品のPRは口コミだけが頼りでした。『地域創生蔵』として、メディアや上川町のみなさんが宣伝してくださったお陰で知名度が上がっていきました。上川町に人を呼び込むことが町への恩返しになると思い、上川町限定のお酒を造りました」
「訪れなければ飲めない、上川町の地酒」というブランディングは大成功だった。だが、塚原さんの仕事はここでは終わらない。
「北海道にもっと酒蔵を増やしたい。全国的に見ても、こんなに酒蔵が少ない都道府県は他にありません。日本酒は飲まれなくなったと言う人もいますが、酒の消費量は酒蔵の数に比例すると思っています。質の高い米の収穫量も増えている北海道で、『地域創生蔵』はもっと増えてもいいと考えているんです」
実際に塚原さんは帯広市で碧雲蔵(へきうんぐら)、函館市・五稜乃蔵(ごりょうのくら)など、酒蔵の新設に携わってきた。近年では北海道だけに限らず、道外からのコンサルティング依頼まであるという。
「視察に来られた際は、必ず従業員全員で接待すると決めています。ご覧いただきたいのは、若者からベテランまで、みんなが楽しそうに酒造りをしているところ。まちをつくるのは酒蔵ではなく人なんだということを伝えたいんです。僕の培ってきた『地域創生蔵』造りのノウハウを、今後も日本全国に広めていけたらと考えています」
上川大雪酒造株式会社
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
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