注目企業のトップに聞くin北海道 すべての人の笑顔のために。保育と福祉で地域づくりを。【株式会社クローバー】

2024年7月22日 公開

「すべての子どもの笑顔のために」を理念として掲げ、認可保育、病児保育、児童発達支援、放課後デイサービスなどの子ども向け福祉サービスの他、障がい者支援サービスなどを展開する株式会社クローバー。代表を務める田中雅世さんは、幼いころからの夢をかなえて保育士となり、小規模保育園を開園。起業に至った経緯や子どもたちへの思い、今後の展望などを伺った。
代表取締役/田中雅世さん
札幌市出身。幼少期の原体験がきっかけで保育士を志す。高校では福祉科で学び、その後社会人特待生枠で保育専門学校へ入学。卒業後は複数の保育園で保育士や調理スタッフとして経験を積み、2013年に家庭的保育事業きずな乳児保育園(現・きずな保育園)を開園。現在は北区を中心に、さまざまな福祉事業を展開している。

遠回りを経てかなえた、幼少期からの夢。

幼少期、兄や近所の男の子たちに囲まれて育ったという田中さん。紅一点、大切にされてきたのかと思いきや、厳しい男社会にもまれてつらい思いもしてきたと苦笑いする。
「からかわれたり放っておかれたり、雑に扱われることも多かったですね。保育園に入園して、進級するにつれ自分がお姉さんとして慕われるようになった時は本当にうれしかった。存在意義を見いだしたと言うと大袈裟かもしれませんが、初めて自分自身の価値に気付くことができました」

当時から近所の家に赤ちゃんが生まれると、自らお世話をしに出掛けて行くほど面倒見が良く、まさに「小さな保育士さん」と言うべき存在だったという。8歳年の離れた妹が生まれた時も、まるで我が子のように可愛がり、育ての親とも呼ばれていたそうだ。
「年齢を重ねても『幼い子どもたちのために役立ちたい』という思いは変わらず、福祉科のある高校へ進学しました。卒業後は本格的に保育を学びたかったのですが、経済的な理由から断念し、美容系会社の事務職員として働き始めました」

しかし長い間温めてきた「保育士になりたい」という思いは冷めるはずもなかった。むしろ全く別の仕事を経験したことでその思いは強くなっていったという。
「とにかく保育園で働きたいという一心で、アルバイトでも構わないと無認可保育園に転職しました。しかし横目で同僚の保育士を見ながら雑務をこなすうち、やはり保育士として子どもとかかわりたいと思うようになり、とうとう22歳で保育専門学校への入学を決意したんです」

自分で稼いだお金で保育士資格を取得した田中さんは、晴れて認可保育園に就職。しかし夢がかなったと思った喜びも束の間、抱いていたあこがれは打ち砕かれることになる。

子どもの幸せのために、まずは保育士を幸せに。

「驚いたのは、保育現場はボランティア精神で補われてる事が多いこと。変わりの保育士がいない、雑務が終わらないなどの理由で、みんな多かれ少なかれ自分のことは二の次で働いている点に疑問を感じました。子育てと仕事の両立も難しく、異業種の一般企業に転職する同僚もいました」

田中さんも別の園に転職したが、労働環境はさほど変わらなかった。この時、特定の園の問題ではなく、業界全体の課題であることを田中さんは悟ったという。
「理想の保育園がないのであれば、自分でつくろうと思いました。でも、資金や人脈、ノウハウがなく、準備期間が必要なのは確実でした。悩んだ末にたどり着いたのは、保育園立ち上げに役立つような職場で働きながら、開園準備を進める、という方法です」

田中さんは保育の給食調理の仕事に就いて、調理技術を身に付けた。手が空けば清掃や雑務をこなし、どんなに小さなことでも一つ残らず吸収しようと考えていたという。
「物件探しや人材集めも同時進行だったので本当に大変でした。必要な工事も依頼先が決まらなくて。そんな中『あなたの将来性に賭けたい』と言って、内装工事を受けてくださった建設業者さんには、感謝してもし切れません。支えてくださったすべての人、起こったすべての出来事に感謝しながら恩返しができたらと思っています」

こうして2013年、「きずな乳児保育園」が開園した。従業員は2倍近くの配置、誰でも気兼ねなく休暇を取ることができるのが特徴だ。残業を極限まで減らすために非効率な保育業務を見直し、残業や持ち帰りの仕事をしなくても良い環境に改善。職員配置が多い分、給与報酬が高めとは言えないが、副業も推進している。実際に兼業保育士として充実した暮らしを送っている従業員もいるという。
「プライベートを大切に、まずは自分自身が幸せでいられる園を目指しているんです。そうでなければ、他人の子どもを幸せにすることはできませんからね」

保育・福祉機能を結集した生涯支援の実現を目指して。

田中さんが大胆な改革を行ったのは働き方だけではない。その1つが、2019年からはじめたデイサービス事業だ。
「小規模保育園は在園年齢が3歳までという規定があるため、それに達した子どもたちは別の保育園に転園していかなければならないんです。3歳とはいえ、慣れ親しんだ保育園を離れるのはつらいですよね。実際に近所の保育園に転園していった、発達がゆっくりなお子さんが、しばらくうなだれた様子で外を散歩しているのを見ていました。そこで、転園後のかかわりの場として、デイサービス事業を開始し、児童発達支援も行なっています」

また、2022年からは就学後の子どもたちのために学童保育事業や放課後デイサービス事業も展開し、現在は障がい者福祉サービス事業にも深く携わっている。今後は子どもだけに限らず、誰もが一生涯支援を受けられるような、福祉に手厚い地域づくりをしていきたいと田中さんは語る。
「例えば支援が必要な高齢者が小さな子どもの面倒を見たり、学校から帰った子どもたちが知識や経験の豊富な高齢者に学んだりと、一つの地域に保育・福祉機能を集結させることで、支援を受ける側もお互いを支え合えるようなコミュニティづくりをしていきたいと考えています」
「すべての子どもの笑顔のために」と設立された株式会社クローバーは今、「すべての人の笑顔のために」という思いへと続いている。

株式会社クローバー

2013年から個人事業主として保育園を運営していた田中雅世さんが、2015年に設立した札幌の会社。認可保育園「きずな保育園」の運営を中心に、病児保育、児童発達支援、放課後デイサービスなどの事業を展開。障がい者福祉サービス事業者との連携にも乗り出し、北区を中心に子どもに限らずみんなが住みやすい地域づくりに取り組んでいる。
北海道札幌市北区北28条西5丁目1-26
TEL.011-709-1006
https://www.clover25.co.jp/
BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
UHBにて毎週火曜日深夜0時25分〜放送中!

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