注目企業のトップに聞くin北海道 物流の人材不足問題を打開し、地域と人を支える運輸会社でありたい。【北海道郵便逓送株式会社】

2024年6月17日 公開

郵便局員がポストから集荷した郵便物を預かり、配送拠点の郵便局に届ける北海道郵便逓送(ていそう)株式会社。1941年(昭和16年)に作られた自動車による郵便事業者の組合がルーツの企業だ。同社代表取締役社長の中田公成さんに就任までの経緯や、「ドライバー不足」という運輸業界の課題に対して取り組んできたこと、地域貢献活動に対する思いなどを伺った。
代表取締役社長/中田公成さん
札幌市出身。銀行員を志し、大学は経済学部に進学したが、父親の勧めで北海道郵便逓送へ就職。札幌市青年会議所への入会をきっかけに幅広い見識を得て、2024年、49歳で社長に就任。障がい者スポーツの支援など地域貢献活動と並行して、運輸業界の課題解決に取り組む。

仲間との出会いが、会社を引き継ぐ決心に。

札幌市出身で同社の創業家に生まれた中田さん。幼いころは近所に住む親族が北海道郵便逓送の社長を務めていたが、社名程度しか知らなかったという。
「高校時代は銀行員の父の背中にあこがれて、経済学部のある大学へ進学しました。でも就職活動のタイミングで、父から北海道郵便逓送に入社しないかと勧められたんです。入社後はいち事務員として車両の管理や労務管理などの業務を担当し、特別な変化もなく、真面目にコツコツと仕事をこなしていました」

ところが34歳の時、8代目社長(先々代)に札幌青年会議所に入ることを勧められたことがきっかけで、中田さんの意識は大きく変化したという。札幌青年会議所は「ひとづくり」「まちづくり」を通して地域貢献を目指す、40歳以下の経済人団体だ。
「地域活性化が企業にとっていかに重要かを学ぶと同時に、初めて外の世界を知るきっかけにもなりました。同世代のメンバーの中には、既に社長を務める仲間もいて、いち事務員であった自分も彼らから多くの刺激を受けたんです。次第に歴史ある会社の創業家の一員として、会社を牽引する責任の重さと自覚が芽生えました」

物流人材不足の課題に耐えうる会社づくり。

2024年6月、49歳で社長就任を果たした中田さん。就任から3カ月間は、全道14の拠点1つひとつを回り、現場の声を聞き取ることから始めたそうだ。
「自らが社長として取り組むべき課題は何か、現場目線で考えるのが目的でした。その結果、まず実行したのがリモート会議の導入です。広大な北海道という地域柄、幹部がすべての会議に出席できないため、それまではドライバーが社長の顔を見ることがほとんどありませんでした。私はドライバーに直接語り掛け、会社の思いを知ってもらう機会を作り、仕事につなげてほしいと考えたんです。また、社内研修として、元コンサドーレ札幌主将でブラインドサッカーチーム『ナマーラ北海道』の運営担当を務める芳賀博信氏を招いてのブラインドサッカーも実施しています。障がい者への理解はもちろん、視界に頼らないことで言葉によるコミュニケーションの重要性を学ぶ機会になりました」

中田さんがこうした職場環境の改善を第一に考えるのには大きな理由があった。自社が古い歴史を持つ一方で見直すべき点も感じたこと、更には業界全体として深刻化する物流の人材不足の解消を自社がリードしたい思いがあったという。
「まずは『物流の2024年問題』に合わせた週休2日制の実現や、ドライバーの負担を減らすため中継運行を充実させました。中継運行とは1つの工程を複数台の拠点に分けて分担することで、1人あたりの移動距離を短縮する方法です。ドライバーはその日のうちに帰宅できるため、労務負担の軽減や規則的な生活リズムの確保が可能で、全道に拠点がある当社ならではの強みを生かして始めた取り組みです。他にも、車載カメラでドライバーの視線を認知し、居眠りの危険を知らせてくれるシステムも導入しました。社員たちの『働きやすくなった』という声を集め、自社のウェブサイトで広めることで求人にも役立てています」

地域社会を支援しながら、社員一人ひとりを応援したい。

札幌青年会議所での経験を生かして、さまざまな人との共生によって社会が成り立っていることや、地域が支え合う重要性を社員にも伝えているという中田さん。地域貢献活動にも積極的に力を注いでいる。
「知的障がいを持つ人たちのスポーツ競技大会『スペシャルオリンピックス』の応援活動を2019年から現在も継続しています。その他、経済的に困窮しているなどの理由で孤立状態にある子どもに居場所をつくるプロジェクト『いとこんち』の活動も支援しています」

こうした地域貢献活動は近年、社内での理解も高まり、ボランティアの募集には多くの社員が手を挙げてくれるという。顔をほころばせながら中田さんは話を続ける。
「今後も地域貢献活動を続けながら、現場をできる限り回り、400名の社員一人ひとりを応援し続ける社長でありたいと思っています。運輸の仕事は決して表舞台に出る仕事ではありませんが、世の中になくてはならない仕事です。安全に、時間通りに郵便物を届けることで人と人をつなぐ、素晴らしい仕事であると、社員たちに誇りを持って働いてもらいたいと願っています」

北海道郵便逓送株式会社

1945年に札幌で創業。「心を運ぶ心で運ぶ」を社訓として掲げ、北海道の郵便輸送業を担う。札幌(本社・営業所)・函館・旭川・小樽・室蘭・釧路・帯広など、拠点は全道14カ所にも及ぶ。郵便物の運送・航空コンテナ輸送・一般貨物運送の業務を請け負い、思いと共に手紙や荷物を運び続けている。
北海道札幌市北区北6条西6丁目2-25
TEL.011-214-0710
https://hokutei.com/
BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
UHBにて毎週火曜日深夜0時25分〜放送中!

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