注目企業のトップに聞くin北海道 「ジンギスカンのマツオ」から「羊肉といえばマツオ」を目指して。

2024年8月5日 公開

味付きジンギスカンの製造販売や、北海道内外で「松尾ジンギスカン」のレストラン経営を担う株式会社マツオ。北海道の食文化と共にジンギスカンを次世代へ継承し、羊肉の新たな可能性を探るマツオの4代目社長松尾吉洋さんに、後継のきっかけや代表就任までの経緯、現在の事業内容、今後の展望などを伺った。
株式会社マツオ 代表取締役社長/松尾吉洋さん
1974年滝川市生まれ。祖父が創業した株式会社マツオの後継を視野に、大学は早稲田大学経済学部へ。1999年、父親の急逝を機にマツオに入社。2014年4代目代表取締役に就任。ジンギスカンを次世代や道外顧客へ広めることに注力しながら、羊肉の新たな楽しみ方を提供するコンテンツを模索中。

実家は本店の隣。幼少期に芽生えた後継の意思。

滝川市にある「松尾ジンギスカン本店」の隣が実家だったという松尾さん。幼いころから多くの人がおいしそうにジンギスカンを頬張る様子を目の当たりにしてきたという。
「観光バスが何十台と来て、降りてきたお客さんたちがジンギスカンを食べ、みんな満足そうに帰っていく。時々、残ったジンギスカンをつまみ食いしながら、いずれは自分がこの会社を継ぐのだろうと考えていましたね」

中学卒業後は、母親の勧めで千葉県の全寮制高校へ入学。校則も上下関係も厳しかったが、自立心を養うための重要な機会になったと振り返る。
「高校時代だけでページを埋め尽くすほどいろいろなことがありました。何しろ3年間で外出したのはたったの3日間。勉強はもちろん掃除や洗濯も自分でこなしながら、一人前の人間として、生きていくための術をすべてここで学びました」

その後は早稲田大学経済学部に進学。いずれマツオを後継することを視野に、卒業後10年ほどは一般企業での就業経験を積もうと考えていたそうだ。
「ところが、大学3年の時に父が脳卒中で急逝してしまったんです。知らない世界を見てみたいという思いも強かったので葛藤もありましたが、卒業後、健在だった祖父に呼び戻され株式会社マツオに入社することを決めました」

道外進出の第一歩は東京・銀座。大胆な出店で実績を積む。

入社当初は食肉工場で肉をカットしたり、タレを調合したりといった製造工程に従事していたという松尾さん。「同族経営だから甘えている」とは思われたくない一心で、誰よりも早く出勤して仕事場に立ち、目の前の仕事に打ち込んだ。その仕事ぶりが認められて、新規事業の立ち上げや、花形である観光部門の担当を経て2009年に副社長となる。
「副社長就任後、まずは松尾ジンギスカンのリブランディングを図るために、お客さまと従業員にアンケートをとりました。そうして改めて掲げたブランドプロミスが『いつでも、どこでもおいしい道民のソウルフードとして、家族や仲間との思い出づくりに貢献し続けること。北海道が誇る食文化ジンギスカンのおいしさを、世界へ向けて発信してゆくこと』です」

次に行ったのが、レストランの道外展開だ。記念すべき第1号店は東京・銀座、2号店も赤坂に出店。道民には家庭でなじみ深いジンギスカンを、あえて高級店が軒を連ねるエリアに持ち込むという大胆な出店は当時、大きな話題を呼んだ。そして2014年には代表取締役に就任した。
「創業者である祖父の考えは『儲けを考えず、みんなに満足してもらえることを考えろ。そうすれば利益は後から付いてくる』ということ。この考えを受け継ぎ、ブランドを率いていこうと誓いました」

無限大の可能性を秘めた羊肉を次世代へ、道外へ。

社長に就任した2014年は、団体旅行客が減少し、個人旅行客が増加してきたタイミング。松尾さんは思い切って大型レストランを手放すことを決意した。また羊の聖地、滝川市で羊肉の生産過程を知ってもらいたいと2016年に開設された「松尾めん羊牧場」も、松尾さんの提案によって実現したものの一つだ。
「牧場開設と同様、学校給食などを通じて多くの人にジンギスカンのおいしさを伝える活動も行っています。滝川市や近郊の5市5町では、夏休み前の学校給食で松尾ジンギスカンを提供しています。将来子どもたちが大人になったとき、『ジンギスカンを食べたら、夏休みが来たよね』などと思い出話をしてもらえたらうれしいですね。また、リンゴや玉ねぎの生産量が多いこの地域だからこそ、タレに漬け込んだジンギスカンが生まれたことなど、食文化や歴史についても伝えていけたらと思っています」

長く事業を続けるためには、変化に柔軟であることも大切だと話す松尾さん。経営者として最大の危機は新型コロナウイルスの大流行だった。
「社長として先を読んで決断することの大切さを痛感しました。実はコロナ禍に突入したばかりの2020年、東京に『松尾めん羊牧場』の最高品種サフォークや、世界の羊料理などを提供する新店舗を出店する予定だったんです。しかし、到底収まりそうにないコロナ禍を前に、開店2か月前のタイミングで計画を白紙にしました。あの時、新たな計画を捨て、従業員の雇用を守る決断をして本当に良かったと感じています」

この決断力もまた、先代から受け継いできたものの一つなのかもしれない。今後思い描くビジョンについても松尾さんは語った。
「日本で一番羊肉を食べる北海道でも、ジンギスカン以外の食べ方を知らない人は多い。今後はさまざまな羊肉の楽しみ方を提供できるコンテンツを充実させていきたいと考えています。羊肉はおいしいだけでなくヘルシー。道外にもその素晴らしさを広めていきたいですね。そして『羊といえば松尾』と言われるような企業に成長していきたいと思っています」

株式会社マツオ

1956年、滝川市にて羊肉の量り売り店「松尾羊肉専門店」として創業。タレに漬け込んだ味付きジンギスカンが人気を集め、商品の製造・販売やレストラン運営を展開。2024年8月現在は、北海道に9店舗、東京に5店舗を構える。
北海道滝川市流通団地1丁目6‐12
https://corp.matsuo1956.jp/
TEL.0125‐23‐1919
BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
UHBにて毎週火曜日深夜0時25分〜放送中!

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