注目企業のトップに聞くin北海道 ふるさと納税で、まちの価値と新しい働き方を共創する。【株式会社 Souplesse(スプレス)】

2024年5月20日 公開

ふるさと納税のディレクション、返礼品のブランディング事業に携わる株式会社Souplesse(スプレス)。対話によるコミュニケーションを大切にしながら、ふるさと納税にかかわる農業・漁業者を支える中間事業者として、更にはまちの課題を解決するためのパートナー企業として事業を展開してきた。代表取締役の加納さんに、会社を設立するまでの経緯や、これまでに取り組んできた事業内容、今後の展望などを伺った。
代表取締役/加納 綾さん
黒松内町出身。父親が学校教員で転勤が多く、子ども時代は転校を繰り返していた。教員という職業にあこがれを抱いた時期もあったが、金融機関に勤め、その後結婚・出産。子育てが落ち着いたころ、土産物販売店に再就職し、ふるさと納税事業に携わる。そこでの業務経験や、返礼品を生産する農業事業者とのかかわりの中にビジネスチャンスを見いだし、2016年株式会社Souplesseを設立。

ひらめきとやりがいが後押ししたスピード起業。

生まれは黒松内町だが、教員を勤める父親の転勤で幼少期は道内各地を転々としながら過ごしてきた加納さん。高校卒業後は当時住んでいた室蘭市の金融機関に就職し、2年ほど勤めた後は結婚を機に退職。出産も経て、しばらくは専業主婦として暮らしていたという。

その後、子どもの成長やご主人の転勤に合わせて、寮母や和裁師などさまざまな仕事を経験。そして39歳の時に働き始めた土産物販売店で転機が訪れる。
「取引先の会社がふるさと納税事業を始めた関係で、返礼品を提供する農家さんの元へ私も同行するようになったんです。すると、農家さんは返礼品のリスト作成やメールなど、PCでの事務作業に苦労をされているのを目の当たりにして。その業務を手伝うようになり、同じ悩みを抱える農家さんに向け、こうしたサポートを社内で事業として取り組んではどうかとひらめいたんです」

アイデアが形になるまでにそう長い時間はかからなかった。すぐに事業部を立ち上げ、土産物販売と並行して各市町村の返礼品提供事業者をサポートする業務を請け負った。
「仕事の依頼は途切れることなく、このまま続けていけばもっと事業を拡大できると思っていたんですが…その矢先、会社の経営者が変わって、ふるさと納税事業からの撤退を言い渡されてしまいました。けれど、複数の農家さんとの関係が徐々にできてきて、やりがいも感じていた真っ最中。このままあきらめるわけにはいかないと思い切って独立を決意し、退職から1ヶ月後には会社を立ち上げました」

事業成功の鍵は、対話によるコミュニケーション。

2016年、45歳で起業を果たした加納さん。農業だけでなく漁業のサポートも請け負うようになり、さまざまな地域での仕事を経験した。中でも独立直後からかかわってきた、利尻島の人々との出来事が今もビジネスの原点になっていると振り返る。
「何度も訪問を繰り返す私に、初めは『そんなに来なくていいよ!』とおっしゃっていたのですが、それでも足を運ぶうちに『次はいつ来てくれるの?』という言葉を掛けてくださるようになって。その土地の人たちと同じ目線で仕事をする上で、対面でのコミュニケーションを繰り返すことがいかに大切かを教わりました」

時には地元の漁師さんと杯を交わし語り明かすこともあったという。会話の中からふと、自らが解決すべき課題が見つかることも多かった。
「例えば、利尻昆布は採ってすぐよりも、蔵で2〜3年熟成させると味がよくなり価値が上がる。しかし同時に漁師さんの収入も先送りになってしまうという悩みを抱えていました。そこで当社が先に昆布を買い取ることを提案したんです」

利尻島ではこの他にも、酒蔵の廃業とともに製造終了となった地酒を、別の酒造会社での製造を提案し復活させるなど、さまざまな商品の開発に成功している。スプレスは単なる中間事業者ではなく、地域と共に新たな価値を生み出すパートナーとしての役割をも担っているのだという。
「ふるさと納税はそれぞれの市町村にとって直接の財源になるので、寄付額の増減は死活問題です。目標額を確実に達成できるよう、商品の見せ方や価格、配送方法まで細かくチェックすることはもちろん、まちの活性化につながるのであれば、新しいことにも臆さず挑戦することを心掛けています」

都市部にいながら地方を支える。ふるさと納税発の新たな働き方。

現在、会社の従業員は30名ほど。加納さんが職場づくりで目指しているのは、どんな立場の人でも助け合える環境だ。
「子育て中の社員も多いので、お子さんの発熱などで急な休みに対応できる環境にしています。独身の従業員にも、自身がいつ介護や自分自身の病気などで休みが必要になる日が来るかは分からないのだから、いつも『お互い様』の精神で助け合うことを忘れないように、と話しているんです」

更に新たな採用方法も思案中だという加納さん。地方の市町村出身者を会社で採用し、故郷のふるさと納税事業に携わってもらうという取り組みを計画しているという。地元を出て都会での進学や就職を希望する若者が多いこと、その影響もあって地方の人材が不足し、産業が衰退していっていることに危機感を覚えたことから発想したそうだ。
「改めて自分のまちの良さを知ることができるし、まちの外にいながら地元をサポートしていくこともできる。ふるさと納税にかかわる仕事をしている当社ならではの、新たな雇用のあり方だと思っています。これからも対面でのコミュニケーションを基盤に、ふるさと納税だけでなくさまざまな形で北海道の市町村に活気をもたらす会社であり続けたいと願っています」

株式会社Souplesse

2016年に札幌で創業。ふるさと納税のディレクション、返礼品のブランディングなどを行う。返礼品の受注代行や商品開発を主軸に、対面での会話を重視したコミュニケーションを通して、各市町村の課題解決にまで切り込む。目標納税額を常に上回る実績が高く評価され、取り引きのある市町村も年々増加。旅先納税事業や道内外での商品ブランディング事業も展開している。
北海道札幌市厚別区厚別中央3条2丁目16-30
TEL.011-807-5603
https://souplesse.jp/
BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
UHBにて毎週火曜日深夜0時25分〜放送中!

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