北海道の海と漁業のために。「酒」と「魚」の縁がつないだ「海洋熟成酒」。
2024年5月27日 公開
海底に酒を甁ごと沈めて1年間熟成させる「海洋熟成」という手法を用いて、ひと味違ううまい酒を提供する株式会社北海道海洋熟成。代表取締役を務めるのはすすきので「BAR一慶」を経営する本間一慶さん。漁業関係者の協力の下、海に囲まれた北海道でさまざまな味わいの「海洋熟成酒」を研究・開発し続ける本間さんに、会社を設立するまでの経緯や、今後の海洋熟成事業の可能性などを伺った。
機械工学から酒の世界へ。アルバイトで見つけた自らの道。
本間さんが育ったのは、すすきので親族が経営する鮮魚店。そこで働く父に手を引かれて幼いころから取引先の飲食店に連れて行ってもらい、年の割には舌の肥えた子どもだったと笑う。
「顔なじみになった寿司屋に一人で行って、支払いは後で父がするなんていうこともありました。子どものころから機械が好きだったので、将来は宇宙船の開発に携わりたいと、進学先も工業高校、工業大学を選びました」
大学時代は学業と並行してアルバイトにも精を出し、なんと1日に6つの職場を掛け持ちするほど多忙な日々を送っていたという本間さん。飲食業の楽しさに目覚め、そのうちのひとつ、バーテンダーとして勤めていた店で本間さんの人生は動いた。
「他の飲食店に比べてお客さまとの距離が近く、コミュニケーション能力も必要でしたし、酒の作り方ひとつとっても学生の自分には難しく、壁にぶつかっては先輩バーテンダーの背中を見て学び、本気でお客さまと向き合い続けました。この繰り返しのうちに、初めは『まだまだだね』と言っていたお客様がいつしか『良くなった』と褒めてくれるようになり、別のお客様を紹介してくれるようになったんです。それがうれしくて、次第にこの道のプロになりたいという思いが強くなっていきました」
「顔なじみになった寿司屋に一人で行って、支払いは後で父がするなんていうこともありました。子どものころから機械が好きだったので、将来は宇宙船の開発に携わりたいと、進学先も工業高校、工業大学を選びました」
大学時代は学業と並行してアルバイトにも精を出し、なんと1日に6つの職場を掛け持ちするほど多忙な日々を送っていたという本間さん。飲食業の楽しさに目覚め、そのうちのひとつ、バーテンダーとして勤めていた店で本間さんの人生は動いた。
「他の飲食店に比べてお客さまとの距離が近く、コミュニケーション能力も必要でしたし、酒の作り方ひとつとっても学生の自分には難しく、壁にぶつかっては先輩バーテンダーの背中を見て学び、本気でお客さまと向き合い続けました。この繰り返しのうちに、初めは『まだまだだね』と言っていたお客様がいつしか『良くなった』と褒めてくれるようになり、別のお客様を紹介してくれるようになったんです。それがうれしくて、次第にこの道のプロになりたいという思いが強くなっていきました」
独立後の更なる起業で、コロナ禍を打破。
バーテンダーとして研さんを積み、徐々に常連から指名をもらえるようになるなど、積み重ねてきた努力が目に見えて実を結んでいったという本間さん。大学卒業後もバーテンダーとして働き続け、2007年、29歳ですすきのに「BAR一慶」をオープンした。
「独立への思いが増していたある時、たまたま空き店舗があると聞いて行った先が、かつて知人が店を営んでいた場所だったんです。これも縁だと思って、店を構えることをすぐに決意しました。バーテンダーとして10年以上やってきたのである程度自信はあったのですが、オーナーとして毎日店を開け続けるというのはそう簡単なことではなく、思いも寄らないアクシデントに遭遇することも多々ありました」
新型コロナウイルスの流行は、その最たるものだった。本間さんの店だけではなく、人々でにぎわっていたすすきのの飲食店は軒並みシャッターを下ろし、皆今後の経営に頭を悩ませていた。
「初めは先の不安で頭がいっぱいでしたが、おろおろしていても店を開けられないという事実は変わらないので、まずは駄目元でも何か始めてみようと思いました。考えた先にたどり着いたのは、以前からやりたいと思っていた『海洋熟成』を事業化することでした」
海洋熟成とは海底に酒や調味料などを沈めて一定期間寝かせ、波の振動によって沈めたものを熟成させるという手法。本間さんは酒を瓶のまま海の底に沈めて1年間熟成させた、「海洋熟成酒」の販売事業を立ち上げようと考えたのだ。
「昔、海洋熟成されたワインを飲んだことがあって、熟成前に比べてまろやかになった口当たりや味の深みに、本当においしいと感激したんです。漁業関係者に協力を求めて話を聞きに行くと、折しもコロナ禍で飲食店に卸す予定だった魚が行き場をなくし、漁業も打撃を受けているのだと知りました。そこで、漁師さんたちに魚と海洋熟成酒をセットで売り出すことを提案し、クラウドファンディングでそのための資金を募ったんです」
「独立への思いが増していたある時、たまたま空き店舗があると聞いて行った先が、かつて知人が店を営んでいた場所だったんです。これも縁だと思って、店を構えることをすぐに決意しました。バーテンダーとして10年以上やってきたのである程度自信はあったのですが、オーナーとして毎日店を開け続けるというのはそう簡単なことではなく、思いも寄らないアクシデントに遭遇することも多々ありました」
新型コロナウイルスの流行は、その最たるものだった。本間さんの店だけではなく、人々でにぎわっていたすすきのの飲食店は軒並みシャッターを下ろし、皆今後の経営に頭を悩ませていた。
「初めは先の不安で頭がいっぱいでしたが、おろおろしていても店を開けられないという事実は変わらないので、まずは駄目元でも何か始めてみようと思いました。考えた先にたどり着いたのは、以前からやりたいと思っていた『海洋熟成』を事業化することでした」
海洋熟成とは海底に酒や調味料などを沈めて一定期間寝かせ、波の振動によって沈めたものを熟成させるという手法。本間さんは酒を瓶のまま海の底に沈めて1年間熟成させた、「海洋熟成酒」の販売事業を立ち上げようと考えたのだ。
「昔、海洋熟成されたワインを飲んだことがあって、熟成前に比べてまろやかになった口当たりや味の深みに、本当においしいと感激したんです。漁業関係者に協力を求めて話を聞きに行くと、折しもコロナ禍で飲食店に卸す予定だった魚が行き場をなくし、漁業も打撃を受けているのだと知りました。そこで、漁師さんたちに魚と海洋熟成酒をセットで売り出すことを提案し、クラウドファンディングでそのための資金を募ったんです」
「海洋熟成酒」が、漁業と地球の未来を救う。
クラウドファンディングの成功を受け、漁業関係者と共に酒を熟成させることのできる海域を探し出し、次々に酒瓶を眠らせていったという本間さん。熟成期間が1年間かかるため、アイデアを思いついてから実現するまでにはブランクが避けられなかった。研究・開発期間を含めると、事業展開できるまでにかかった年月は3年間にも及ぶ。しかし、海底から引き上げられた酒はその珍しさからすぐに大きな話題となり、海洋熟成は地場産品の新たな付加価値として注目を浴びることとなった。
「海洋熟成した地酒はふるさと納税の返礼品にも選ばれています。お客さまからお預かりしたお酒を代理で沈めて引き揚げ、お返しするという『海底セラーサービス』も好評です。現地に来ていただいて潜水し、酒瓶との海中記念写真を撮る特別ツアーも開催するなど、商品作りだけにとどまらない事業も広がりました」
新型コロナウイルスの流行はバーの経営にとっては大打撃ではあったものの、自由な時間が確保できたからこそ実現したのだと本間さんは振り返る。まさに「ピンチをチャンスに」とはこのことだろう。
「酒瓶のケース群は時間がたつにつれ、魚たちの住まいとなる魚礁(ぎょしょう)と化して生態系が構築されていきます。回りまわって、海洋熟成酒を飲むことでブルーカーボン生態系が生まれ、地球環境保全にもつなげられるのではないかと思っているんです。豊かな北海道の海と、漁師さんの仕事を守っていけるような事業にしていきたいですね」
「海洋熟成した地酒はふるさと納税の返礼品にも選ばれています。お客さまからお預かりしたお酒を代理で沈めて引き揚げ、お返しするという『海底セラーサービス』も好評です。現地に来ていただいて潜水し、酒瓶との海中記念写真を撮る特別ツアーも開催するなど、商品作りだけにとどまらない事業も広がりました」
新型コロナウイルスの流行はバーの経営にとっては大打撃ではあったものの、自由な時間が確保できたからこそ実現したのだと本間さんは振り返る。まさに「ピンチをチャンスに」とはこのことだろう。
「酒瓶のケース群は時間がたつにつれ、魚たちの住まいとなる魚礁(ぎょしょう)と化して生態系が構築されていきます。回りまわって、海洋熟成酒を飲むことでブルーカーボン生態系が生まれ、地球環境保全にもつなげられるのではないかと思っているんです。豊かな北海道の海と、漁師さんの仕事を守っていけるような事業にしていきたいですね」
株式会社北海道海洋熟成
映画『探偵はBARにいる』ではバーシーンの監修・演技指導にも携わった「BAR一慶」のオーナーが2020年に設立した。ウイスキーやワイン、シャンパン、日本酒などを瓶のまま海底に沈め、波の振動で熟成させた海洋熟成酒を製造・販売。海の力を利用した新たな酒の楽しみ方を提供している。国土交通省と国税庁の許可を得て運営する唯一の海洋熟成事業所。

BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
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