注目企業のトップに聞くin北海道 「良くなった」の言葉だけに満足しない。データと数字で示してこそ価値がある。【ゼロスペック株式会社】

2023年7月10日 公開

「データから未来に新たな価値を提供する」をミッションに2015年に創業したゼロスペック株式会社。冬の北海道の生命線ともいえる灯油配送をIoT技術によって効率化するシステムを開発・運営し、急成長を遂げているスタートアップ企業だ。代表を務める多田さんに、歩みや今後の展望を伺った。
代表取締役/多田満朗さん
札幌市出身。高校ではサッカーに打ち込み、卒業後アメリカの短大へ。帰国後、広告代理店勤務を経て、2015年に39歳で独立しゼロスペック株式会社を立ち上げる。

大手企業で学んだ、何事も数字で考える姿勢。

同社の主力商品は、家庭の灯油タンクの残量を遠隔から把握するIoTデバイス「スマートオイルセンサー」と、灯油の自動発注・配送管理システム「GoNOW」。灯油の配達業者を対象にサービスを提供している。業者はこの二つを組み合わせることで、残量のあるタンクに配達に行ったり、配達が遅れてタンクが空になることを防いだり、更には最適な配送ルートの作成が可能となるなど効率的な灯油配送が実現する。
このユニークな商品を開発した多田さんは札幌市の出身。高校まではサッカーに打ち込み、卒業後、進路に迷う中で知人の勧めによりアメリカに留学した。海外に出たことで日本の良さを再認識して、短大卒業後に帰国、広告代理店に就職したというが、その理由がなんとも秀逸だ。
「あえて経営状態が悪化している会社に就職しました。そうした状況にある会社では何が起こるのか、学ぶことが多いのではと考えたのです」
結果、その会社は入社1カ月後に民事再生法の適用を受ける。だが、経営を家具小売業大手のニトリに営業譲渡したことで、同社の広告関連部門を担うニトリパブリックが発足され、多田さんも移籍することとなった。
同社では広告関連の業務の他、本社にも出向し新規事業開発を手掛けるなどさまざまな分野で業務経験を積んだ多田さん。当時よく言われた「数字で話せ」という言葉が、現在の自分にとっての重要な礎となっていると振り返る。
「物事を数字化して正しく判断し、ロジックで考える姿勢を学んだことはその後の大きな財産となりました」
多田さんは、入社時から「いずれは起業したい」と周囲にも公言。20代後半で似鳥昭雄会長と話す機会があり、その時に言われた言葉にもまた感銘を受けたそうだ。
「独立するなら40歳までは幅広く経験を積んでからのほうがいい、とアドバイスされました。それまで学べるものはしっかりと学び、吸収をしてからにしたほうがいい、と」
同社での日々は充実し一時は起業の夢も忘れるほどだったというが、最終的に多田さんは39歳で独立。会社の皆も応援して送り出してくれたそうだ。

「灯油は定期配送するもの」という常識を覆す。

だが多田さんはなぜ、それまでかかわりのなかった灯油配達を商材とした起業を決めたのだろうか?その理由について、多田さんは「もともと常識を疑う性格なので」と説明する。
「人口減少や高齢化が進む中で、将来はどんな仕事が必要になるかを考えました。そんな時にふと灯油タンクが目に留まり、灯油配達について調査してみたんです。まさにひらめきが下りて来た、という感覚でした」
調査の結果で多田さんが知ったのは、残量が分からない中で定期的に配達をする配送員の苦労。高く積もった雪をかき分けながらやっとのことでタンクにたどり着くと、まだまだ満タンに近く補給の必要がなかったり、反対にお客様から「タンクが空になる寸前なのにまだ来れないのか」とクレームがきたり…。
「灯油配送員の高齢化が進み人手不足が進めば、将来的に〝灯油難民〟が発生し、特に北海道では深刻な問題が生じるのではという心配も頭をよぎりました。海外ではゴミの量を可視化して効率的に回収するシステムがあると知っていたので、灯油タンクの残量を配達前に遠隔で把握することを思い付いたんです」
そうして多田さんが開発したのが、灯油タンクのふたにセンサーを取り付けて残量を把握するシステム。ニトリで学んだデータや数字の大切さを踏まえ、中小の業者でも気軽に使える価格帯や、導入の手軽さを重視した。

仲間を信じて未完成でもまずは一歩を踏み出す。

システムのリリース後は販路を拡大させるために、最初は人脈を駆使しながら、地道なアポ取りを続けるなど、少しずつ取引先を増やしていった。現在では北海道を中心に、沖縄や九州などを含む33都道府県に約3万台を設置するまでに成長。サービスの利用を始めた顧客からは「残業が減り休日が増えた」「正月にゆっくりと休めるようになった」などの喜びの声が次々に寄せられたという。一方でそうした声に満足しないよう心掛けていると多田さんは強調する。
「『導入して良かった』という感覚的な評価よりも、導入した結果、残業時間がどれだけ減って、家族との時間がどれだけ増えたかなど、具体的な数字として分かる価値を提供することを大切にしているんです。ここでもまた『数字で話せ』というニトリでの教えが役立っています」
たった一人で創業したゼロスペックだが、現在の従業員は15人。急成長企業として注目を集めながらも、多田さんは「自分は未熟な経営者だ」と話す。
「最初から100%の事業、完璧な会社を目指すのではなく、まずは小さくても良いから一歩を踏み出すことを大切にしています。そして社員皆で検証し、改善を繰り返していけば、自ずと良い方向に進むでしょう。そのために、まずは共に挑むチームを信じること。どんな人であれ、一人でできることは決して大きくはありませんからね」

ゼロスペック株式会社

2015年創業。灯油タンク内の灯油残量を遠隔で把握し効率的な配送を実現するIoTデバイス「スマートオイルセンサー」、クラウドサービス「GoNOW」の開発・運用を行う。
北海道札幌市中央区北2条東1丁目2-2 プラチナ札幌ビル8F
https://www.zero-spec.com
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
BOSS TALK
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
UHBにて毎週火曜日深夜0時25分〜放送中!
※番組は2023年9月26日で終了しています。

注目企業のトップに聞くin北海道

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