北海道ビジネスニュース 親を頼れない子どもと若者の居場所、「B4S PORTさっぽろ」がオープン。

2024年9月16日 公開

虐待や貧困、親の病気などさまざまな事情で親を頼れず、児童養護施設や里親家庭で育った子どもたち。18歳になり、社会に出ると孤独を抱えてしまうことも少なくありません。そんな子どもたちを支援するための“居場所”として「B4S PORT(ポート)さっぽろ」が今年6月にオープンしました。運営するNPO法人ブリッジフォースマイル北海道事務局の岩沢範子さんと奥奈美さんに、詳しいお話を伺いました。
「B4S PORT さっぽろ」では、子どもたちが食料や生活雑貨などの生活物資を受け取ることも可能。スタッフや臨床心理士、弁護士への個別相談もできます。

虐待サバイバーだからこそ、つくりたかった“居場所”。

NPO法人ブリッジフォースマイル(略称・B4S)は「親を頼れないすべての子どもたちが笑顔で暮らせる社会へ」という思いから、2004年に東京都で創立された団体です。主な活動内容は、児童養護施設や里親家庭で暮らす子ども、施設を退所した若者、親を頼れない子どもたちの社会的な自立〝巣立ち〟をサポートすること。他にも、一人暮らしをするためのセミナー開催、孤立を防ぐための居場所づくり、同じ悩みを持つ若者同士のシェアハウス運営などに取り組んでいます。

北海道事業所が新設されたのは2022年8月。以来、定期的に「巣立ちセミナー」を開催し、2024年6月、北海道より受託した『北海道社会的養護自立支援拠点事業』として、「B4S PORT さっぽろ」がオープンしました。
「ここは気軽に立ち寄ってくつろいだり、仲間やスタッフと交流したり、ご飯を作って食べたりすることもできるみんなの居場所です」

そう笑顔で話す岩沢範子さんは会社員として働く傍ら、同団体で10年以上にわたってボランティア活動に携わり、北海道事業所を立ち上げた人物です。「B4S PORTさっぽろ」の開所には、団体代表に直談判して実現したと言います。
「実は私自身もかつて、親を頼れない子どもだったんです。社会に出て、何もかもが初めての環境で、ちょっとした困りごとがあっても相談できる相手がいない…そんな心細い経験をしたからこそ、同じように悩んでいる子どもたちや若者を支えていきたい。そんな思いでこの場所をオープンしました」

支援の思いは立地や間取り、家具・雑貨選びにも。

計画からわずか約2カ月で開所に至ったという「B4S PORT さっぽろ」ですが、岩沢さんが一番苦労したのは、物件探しだったとか。というのも北海道全域からアクセスが良い「大通」「札幌」駅近くで、不特定多数が利用可能という条件に合致した物件がなかなか見つからなかったそうです。
「関係者総出で探し、ようやく見つかったのがこの場所でした。札幌駅北口から徒歩5分の好立地で、JRや高速バスで札幌市外からのアクセスも容易です。エントランスにオートロックがないことも、中高生が気軽に玄関ドアの前までたどり着けるために大事なポイントです。広いキッチンがあるからこそ、一人暮らしに必要な自炊の経験ができるし、誰かと一緒にご飯を作って食べることの楽しさを分かち合うこともできます。みんなでパーティなんかもできますよ」

更に、置かれている家具や食器などの生活用品、壁や照明の装飾にもそれぞれこだわりがあるのだと、岩沢さんは続けます。
「家具は協賛企業である株式会社ミサワ様からご提供いただいた『unico』ブランドのもので、必要物品や装飾品も、スタッフが選び抜いた良品ばかりです。良い家具が並ぶ空間に通されれば、それだけで自分が大切にされている気持ちになるものです。『質の良いもので子どもたちを迎え入れたい』というのは、ブリッジフォースマイル創立当初からの思いなんです」

また別室には本格的なプロジェクターも設置されていて、そこでは映画や動画をいつでも高画質・高音質で観ることができます。
「SNSで『気晴らしに行ってくる』と言って、シアタールームに来てくれた子もいて。ここで過ごす時間が憂鬱な気持ちを晴らすのに役立っていると思うと、一つひとつ丁寧に準備をしてきて本当に良かったと思いましたね」と奥さん。

法改定でより多くの人に“第3の居場所”を。

これまでの児童福祉支援対象者は、児童養護施設等に入所しているなど「社会的養護出身者」に限られていました。しかし2024年4月の法改定に伴い、その枠組みは拡大。施設退所者や里親家庭で育った子どもではなくとも、親を頼ることのできないすべての子どもが支援を受けられるようになりました。
「枠組みが変わったことで、より多くの人に『B4S PORTさっぽろ』を利用してほしいと考えています。親ではない、学校の先生でもお医者さんでもない、それでも手を差し伸べてくれる大人が社会にはたくさんいることをここで実感してもらいたいです」と岩沢さん。

先日には「シェルター」も開所。子どもが自らの身に危険を感じた際、一時的な避難所として宿泊も可能な施設です。現在その運営に携わっている奥さんも、より多くの人に多角的な支援をしていくことを目指していると言います。
「手を出し過ぎず、程よい距離感で伴走できるような相談相手でありたいですね。〝ぼやき〟みたいなちょっとした言葉も受け止めて、子どもたち一人ひとりに寄り添っていきたいです。岩沢さんやボランティアスタッフのみんなと協力しあって、家でもない、職場や学校でもない、〝第3の居場所〟を提供していけたらと思っています」

最後に、岩沢さんに活動を通じて伝えたい思いについて伺うと、こう答えてくれました。
「大変な思いをしてきたのはあなただけじゃない、ということです。一緒にここで過ごす仲間はもちろん、ごく一般的な家庭で育ってきた子だってそれぞれ悩みを抱えていたり、失敗や挫折を繰り返したりしながら生きています。それは子どもに限らず、大人だって同じ。それでもなんとかなる、大丈夫なんだっていうことを、私は自分の実体験からも伝えていきたいと思っています」

NPO法人ブリッジフォースマイル
B4S PORT さっぽろ

2004年、東京都で創立。児童養護施設や里親家庭などで生活する子どもたちを対象とした「巣立ち支援」の他、子どもを支える大人を増やす活動、子どもを支える社会のための広報・啓発活動に取り組む。「B4S PORTさっぽろ」は気軽に立ち寄れる居場所として、仲間との交流や食事、イベントや勉強会、生活に必要な情報の収集、スタッフやボランティアへの個別相談も可能。
北海道札幌市北区北7条西1丁目1-11バームハイツ1204
TEL.011-768-7042
https://www.b4s.jp

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