注目企業のトップに聞くin北海道 オリジナルビールで記憶に残る〝特別なシーン〟を届けたい【パイオビア】

2024年3月18日 公開

名刺に記されたプロフィールは「ビールを作った北大生」。ビールの味わいとその周辺文化の多様性に魅了され、仲間たちと共にオリジナルのクラフトビールを製造・販売する学生起業家が宮地帝輔さんだ。ビール造りを志すまでの道のりや、将来に向けての展望について話を伺った。
パイオビア代表/宮地帝輔
2000年兵庫県生まれ。北海道大学農学部農業経済学科4年在籍。卒業論文は「農村部におけるクラフトビール醸造所の販売戦略-北海道のニセコと道北を事例として-」というタイトルで執筆した。4月以降は同大学院に進学。ビール検定2級。

オランダの農業研修で知ったビールの多様性と奥深い文化

宮地さんの出身は兵庫県。高校の授業を通じて食糧問題に興味を持ち「先進国ではフードロス、途上国では食糧難が問題となっている。両者の均衡を取ることで問題が解決できないだろうか」と考えたことから、大学の農業経済学科への進学を決意した。せっかく農業を学ぶなら広大な北の大地で学びたいと、選んだのが北海道大学。農家の生活の実際を知りたいと、3年生終了後に1年間休学してオランダで農業研修の経験をしたことが転機になった。
「週末ごとに近隣の国々へ出掛け、ビールを楽しみました。そこで国によってビールの味わいもビールを取り巻く文化もさまざまだと知ったのです」
ドイツのオクトーバーフェストやイギリスのパブを訪れ、ベルギーの伝統的なビールを味わうなどの経験を通じて、ビールの多様性や文化の奥深さを知ったそうだ。
帰国して4年生に進級した宮地さんは、すぐに「北大ビールサークル Be Are kids」を立ち上げる。更に北大のさまざまな学部の教授や外部実業家と共にゼミやプロジェクトを通じて学内だけでは学びきれない事柄を学ぶ学生団体「未来開拓倶楽部」にも加入した。倶楽部の自己紹介でビール愛を語ったところ、顧問の教授に「この倶楽部のオリジナルのクラフトビールを造ってみては」と勧められたというのだ。
教授に紹介された醸造所を訪ねて話を聞くと、一回の仕込みにかかる費用は最低20万円。学生の自分にはとても用意できないと一度はあきらめかけた。だが倶楽部のメンバーに呼び掛けて仲間を募ると約30人が応じてくれ、2023年6月には「Beer PJ(ビアプロジェクト)」が発足。ビール造りが始まった。
プロジェクトはまず企画書を作成し、出資者を募ることからスタート。出資を検討する学生には対面で熱意を伝えたいと、何度も説明会を開いた。最終的に10人の学生が出資に応じてくれたそうだ。

学生たちから出資を募り力を合わせ挑んだビール造り

初めて製造するビールに選んだのは、爽やかなのど越しで香り豊かな「セッションIPA」という種類。原料となるホップは20種類以上の中からイメージに合った香りのものを厳選した。市販のビールを飲み比べ、苦みや甘み、アルコール感などを数値化し、希望の味わいが正確に醸造士に伝わるよう工夫。ラベルづくりにもこだわりを重ね、最終的には倶楽部の「AIアウトプットゼミ」が制作してくれたものを採用したそうだ。
「プロジェクトを通じて痛感したのはチームで動くことの大変さと大切さです。メンバー間の役割分担がうまくできないなど、衝突もありました。リーダーにとって不可欠なのは、将来を見越して計画する力や信念をもって正しい方向を示す力なのだと身をもって学びました」
自分の呼び掛けに応じてくれた仲間や必死でアルバイトをして貯めたお金を預けてくれた出資者たちの気持ちに報いるためにもと、学業の傍ら粘り強くビール造りに取り組んだ宮地さん。醸造所での仕込みも体験し、待望の第一弾「未来開拓倶楽部ビール」が完成したのは2023年9月1日のことだった。倶楽部メンバーなど関係者を招いて行った完成記念パーティーは「フルーティーで良い香り」「こんなに泡がフワフワだなんて!」などの感想が寄せられ、笑顔と楽しさでいっぱいの会となったそうだ。そんな宮地さんならばさぞ、お酒に強いのだろうと思いきや…。
「実は僕、アルコールはあまり強くないんです(笑)。広めたいのはビールそのものではなく、ビールを通じて生まれる楽しい時間や文化。あの時あの場所で飲んだビールはおいしかったねと思い出し、笑顔になれるビールを造るのが夢です」

ビール造りの先に見据える社会に根付く文化の創出

2023年秋には酒販免許を取得し「パイオビア」の屋号で販売やイベントの開催、講演活動も開始。第一弾、第二弾で製造した各120リットルのビールは完売し、2024年1月末には第三弾として275リットルのビールが完成した。毎回味わいも香りも違うビールに挑戦し、季節に合わせて、飲むシーンを想像させるビール造りを目指すという。
今年4月からの宮地さんは大学院に進学。冷蔵が必要なクラフトビールの流通や国産原料の研究にも取り組んでいきたいと抱負を話す。
「ビールは人と人をつなぐ素晴らしいコミュニケーションの手段。北大にクラフトビールのブームを巻き起こすと共に、我々はもちろん道内各地の素晴らしい醸造所への関心も高まってほしいというのが願いです。クラフトビールのブームを一時的なもので終わらせず、北海道、そして日本の文化・産業として根付かせたいと思っています」
もう一つ、宮地さんが目標に掲げるのが国産原料によるビール造りだ。
「ビールの原料はほとんどが輸入品。けれど北海道には明治時代、道産原料によるビール『開拓使麦酒』を生んだ歴史があります。それを復活させるのが僕の夢です。そしてそれが可能なポテンシャルを持っているのが、この北海道の大地だと思うのです」

パイオビア

「未来開拓倶楽部ビール」の開発、販売の他、講演会やイベント開催を行う。目指すのは「多様なビールによる多様なコミュニケーションを作ること」。
https://www.piobeer.com

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