北海道発!商品誕生エピソード 恐竜から鳥へ、生命の歴史が潜む。作ろう!フライドチキンの骨格標本【いしかり砂丘の風資料館】

2024年2月26日 公開

おなじみのフライドチキンから生命の進化の歴史をたどる。そんなユニークな講座が石狩市の「いしかり砂丘の風資料館」で開催されています。企画・指導を行い、著書も発行した同館学芸員・志賀健司さんに企画の狙いを伺いました。
2022年11月発行の志賀さんの著書「作ろう!フライドチキンの骨格標本」(緑書房・2,400円税別)。恐竜と鳥の共通点、骨についての「解説編」、実際に標本を作る「工作編」、博物館学などにも触れる「付録」で構成されています。

海岸に打ち上げられたイルカの骨に受けた衝撃

学芸員/志賀健司さん

北海道大学と同大学院で地質学を学び、石狩市職員として「いしかり砂丘の風資料館」に開設準備から携わった志賀さん。2004年に資料館が開設した後は、海までわずか200mという立地を生かし海岸への漂着物を観察・研究する「ビーチコーミング」の活動も行ってきました。
「海辺にはさまざまなゴミの他、生物の死骸が打ち上げられます。前浜にも年1〜2回イルカやクジラが打ち上げられることがあり、資料館の活動に協力してくれるボランティアの方たちと一緒に骨格標本を作ってみたのが最初でした」

血や内臓などを見るのは大の苦手だったのですが、と笑う志賀さん。けれどイルカの胸ビレの肉をそぎ落とした時、外見上、人とはまったく構造が違うイルカに自分と同じ5本指の骨があるのを見て、大きな衝撃を受けたそうです。
「イルカの祖先は四つ足の陸生動物であり前脚が進化して胸ビレになったということは、もちろん知識としては知っていました。それでも、現実に骨としてその証拠を見たことで大きな感銘を受けたんです」

骨が教えてくれる生命の歴史。その面白さを広く一般の人に伝えるにはどうすれば良いのだろうかと考え行き着いたのが、誰でも食べたことがありスーパーなどで簡単に手に入る「フライドチキン」だったというわけです。

身近な素材で作る本格的な博物館標本

2009年から年1回開催する体験講座「フライドチキン骨格標本を作る」は市外や遠方からも受講者が集まります。
「講座はまずチキンを食べるところから始め、日常の食事と標本との連続性を実感できるよう工夫しています。その後、博物館と同じ手法で作業を行い、学名のラベルも貼るなど本格的でカッコイイ標本作りを目指します」

例えば、骨と骨をつなげる時にもできる限りボンドは使わず、骨の中に針金を通すのが講座でのやり方です。
「ボンドでつなげた骨同士はもう元に戻せません。後の研究でそのつなぎ方が間違っていることが分かった場合でも、外して付け直せるようにするのが博物館標本です。講座の中ではそのような説明もしながら標本作りを進めていきます」

その一方で教育の観点から特殊な材料や道具、薬剤は使わず、ホームセンターや100均、薬局などで手軽に入手できるものを使います。講座を通じて鳥と恐竜の骨格の比較から生物の進化を学んだり、人も鳥も恐竜も同じ脊椎動物であることを実感できるよう配慮しているそうです。小学生の時から何回も受講し自分で豚足の標本作りにチャレンジした子や、大学で生物の専攻に進んだ受講者もいるとうれしそうに話します。

身近な場所に潜む地球や生命の歴史の面白さ

そんな志賀さんが2022年11月、緑書房(東京都)から出版した著書が『作ろう!フライドチキンの骨格標本』です。すべての漢字にルビを振り写真やイラストも豊富で、誰もが楽しく読み進められる内容ながら、恐竜と鳥の共通点から進化と骨の基礎知識、標本を作る手順など、生物、地学、歴史、文化など幅広い分野の専門知識がぎっしりと詰め込まれた一冊です。
「私自身、本来の専門は地質ですが、生物や海洋、宇宙など幅広い分野に興味を持ってきました。あえて寄り道を楽しむことで、さまざまな分野が互いに関係し合うことに気付いたんです。この本や講座でもそんな楽しさを伝えられればと願っています」

著書を通じて志賀さんが特に伝えたかったことの一つが、博物館の存在の大切さです。志賀さんの考える博物館の使命とは、自然や歴史、文化など幅広い資料を集め必要があるものは標本化し、現在、そして千年先の人たちに伝えること。そして、それらの研究の舞台となるのは宇宙や南極、海底といった特別な場所だけでなく、身の回りの身近な場所にも地球や生命は潜んでいることを伝えたいと話します。
「普段食べているフライドチキンの中にも恐竜の歴史があるように、ちょっと目を凝らせば家の周りの坂にも火山活動や気候変動の足跡が見えてきます。博物館の持つ、時や分野を超えたワクワク感をもっとたくさんの人に味わってほしいと思っています」

今後は石狩という立地にちなみサケの骨格標本作りなどにも取り組んでいきたいと展望を話してくれました。

ここがこだわり!企画のポイント

飾りたくなる本物のカッコよさ
骨をボンドでつなぐなどの簡便な処理はせず、博物館で行うのと同様の手法・処理を重視。ラベル貼付や台座の着色なども行って本物らしい風格を持たせ「飾りたい!」と思える作品に仕上げます。
誰もが知っている身近な素材
日常生活と標本作りに連続性を持たせ、身近な場所に生命の歴史が潜んでいることを伝えるため、使用する素材は日常的なものにします。
標本を通じて学ぶ博物館の意義
ただ標本作りをするだけでなく、周辺を取り巻く幅広い学問分野への興味を促します。資料収集や標本作りをすることで過去・現在・未来をつなぐ博物館の意義を伝えることも重視しています。

いしかり砂丘の風資料館

石狩川河口地域全体を一つの大きな博物館とみなしその中心となる施設として2004年に開館。地域の自然や歴史を伝える展示を行う。明治時代のサケ缶レプリカを作るコーナー、石狩川のチョウザメのはく製や縄文時代のサケ漁の道具を展示するコーナーなどもある。
北海道石狩市弁天町30-4
TEL.0133-62-3711
https://www.city.ishikari.hokkaido.jp/museum

北海道発!商品誕生エピソード

最新記事5件

恐竜から鳥へ、生命の歴史が潜む。作ろう!フライドチキンの骨格標本【いしかり砂丘の風資料館】 2024年2月26日 公開

フライドチキンから生命の進化の歴史をたどるというユニークな講座を企画・指導している同館学芸員・志賀健司さんにお話を伺いました。

親子三代で引き継がれる、汗と涙の結晶。焼カシュー【池田食品株式会社】 2023年10月30日 公開

「焼カシュー」誕生の秘密を、同社三代目であり取締役の池田晃子さんに伺いました。

老舗菓子店の銘菓がリブランディング「生ノースマン」【千秋庵製菓株式会社】 2023年2月27日 公開

連日完売を続ける新商品誕生の裏側を探るべく、製造元である千秋庵製菓本社を訪ねました。

アイヌ伝統の薬草と北海道素材で作るのど飴「MINAMINA」/株式会社The St Monica[札幌市] 2022年4月18日 公開

開発を手掛けた株式会社セントモニカの代表、七戸千絵さんにお話を伺いました。