北海道発!商品誕生エピソード 老舗菓子店の銘菓がリブランディング「生ノースマン」【千秋庵製菓株式会社】

2023年2月27日 公開

しっとりしたパイ生地に北海道産小豆の餡がぎっしり…。約半世紀にわたって愛されてきた和洋折衷菓子「ノースマン」。北海道民ならば知らない人はいないほどの存在です。そのノースマンがリブランディングし、新たに「生ノースマン」が誕生したのは昨年10月。連日完売を続ける新商品誕生の裏側を探るべく、製造元である千秋庵製菓本社を訪ねました。

道産子新社長が挑んだ、老舗銘菓のリブランディング。

千秋庵製菓株式会社 代表取締役/中西克彦さん

お話をしてくれたのは2022年9月30日付で就任したばかりの5代目社長、中西克彦さん。36歳という若さです。
「ノースマンは『北の人』を意味するネーミングで、1974(昭和49)年、北海道の大地に生きる人々のたくましい力を表したいとの思いから考案されました。まだ和洋折衷の菓子が珍しかった時代です。半世紀が過ぎ、今回はより若い世代にも愛してもらえるよう、生菓子としてのリブランディングを試みました」

千秋庵製菓が札幌で創業したのは1921(大正10)年。初代から4代目まではすべて創業家が社長を務めてきました。中西さんは創業101年目にして初めて、創業家以外から誕生した社長になります。

中西さんは小樽市生まれ。子どものころには活気があった商店街が次第に勢いを無くし、シャッター街になっていく様子を見て育ったと言います。「いつか地方創生に携わりたい」と考えて北海道大学経済学部に進学し、就職したのは大手商社。転機が訪れたのは2015年のことです。高校の同級生で洋菓子店「きのとや」創業者の息子・長沼真太郎さんが新会社を設立し、「力を貸してほしい」と頼まれ、中西さんは入社を決意。新会社の人事総務の責任者としてスタートアップを支えました。

その後、会社の成長を見届けた中西さんは2017年に帯広市の畜産会社へと転職し、飲食事業の立ち上げをリードしました。そのころ札幌では後継者不在などに悩む千秋庵製菓が、長沼真太郎さんを代表とする「きのとやグループ(現・北海道コンフェクトグループ)」との業務提携へと動き出します。長沼さんの誘いもあり、中西さんが千秋庵製菓の副社長として就任したのは2021年12月のことでした。

長い伝統を生かしつつ、新たな層に向けた訴求。

当時の千秋庵製菓が抱えていた「商品が時代についていけていないのでは?」という悩みに直面し、就任後の中西さんがまず手掛けたのがノースマンのリブランディング。
「101年目の一歩として、次の100年に向けた商品づくりが必要でした。知名度の高いノースマンであれば、若い層へもファンを広げていけると考え、更に生地やフィリングを変えるなど、バリエーションの可能性も秘めていると思いました」

若い世代にも愛されるようにとたっぷりの北海道産生クリームを使い、パイ生地と餡、生クリームのゴールデンバランスを目指した新しいノースマン。開発にあたり一番苦労した点は、パイ生地の改良。と言うのも従来の生地のままでは、パイ生地が生クリームの水分を吸ってすぐにベチャベチャになってしまったのです。
「道産小麦の強力粉を使い、従来のノースマンらしい味わいを残しつつ、クリームを詰めても型崩れしない生地を研究したんです。実に8カ月もの時間を要しました」

生クリームも、バターの風味豊かな生地や餡の味わいに負けないように、ミルキーで濃厚なものを探し求め、道産牛乳を原料とする生クリームにたどり着きました。餡に関しては、今も昔も千秋庵製菓の伝統が詰まった一手間かけた皮むき餡を使用しています。

パッケージにもこだわりが光ります。ノースマンというロゴはこれまでも使ってきた、「北海道デザインの父」とも呼ばれる栗谷川健一さんのデザインを継続して使用。発売初期に使われていた十字の方位マークや北海道開拓の精神を表す七光星、北国文化が感じられる編み物をモチーフとした模様・配色で、懐かしさと北国らしい力強さを表現しています。

次の100年に向かって、まだまだ挑戦はこれから!

こうして誕生したのが「生ノースマン」。発売初日の10月5日には約40人、翌日は約80人、翌々日には200人と、開店前から次第に長い行列ができるようになりました。毎日500箱用意するも連日完売が続き、発売から4カ月でおよそ8万箱(約32万個分)を売り上げたそうです。

「これからの100年に向かって、ノースマンの更なる進化や新商品の開発も考えています」と話す中西さん。自ら白衣を着て製造現場にも立つほか、社員一人ひとりとコミュニケーションを深め、徹底した情報公開・共有、精密なデータに基づくロス削減などにも取り組んでいます。伝統を生かしつつ、新しい発想で未来を目指す千秋庵製菓。次に飛び出してくるのはいったいどんなお菓子でしょうか。

千秋庵製菓株式会社

創業は1921(大正10)年。和・洋菓子、チョコレートなどを自社工場を中心に製造する。代表的な商品は「ノースマン」「山親爺」「バター飴」など。
北海道札幌市中央区南3条西3丁目13-2
TEL.0120-378-082
https://senshuan.co.jp
https://northman-hokkaido.com
生ノースマンは現在、大丸札幌店、新千歳空港内2店舗(直営店、北海道本舗)で発売中。4個980円。従来の「ノースマン」もパッケージをリニューアル。オリジナルのロゴを生かした懐かしさや北国らしいぬくもりを感じさせます。

北海道発!商品誕生エピソード

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