北海道ビジネスニュース 身近な市民をガイドに知られざる札幌の魅力を発掘!夫婦で営む「エゾシカ旅行社」

2024年2月19日 公開

札幌の街を徒歩で巡る観光ツアー「闊歩(かっぽ)札幌」をはじめ、小樽の「穴滝トレッキングツアー」、札幌国際芸術祭のディレクターとアートを巡るツアーなど、ユニークな旅行プログラムを実施している株式会社エゾシカ旅行社。同社を営む中根宏樹さん、萌さんご夫婦に、会社設立のきっかけや事業への思いを伺いました。
代表取締役の中根宏樹さん(左)と萌さん(右)。宏樹さんは北海道オートキャンプ協会の理事や、大学の非常勤講師としても活動。萌さんはフリーライターとしても働いている。

起業直後のコロナ禍がユニークな企画の構想期間に。

宏樹さんと萌さんが出会ったのは北海道大学大学院の国際広報メディア・観光学院。共に観光について学び、修了後は宏樹さんは地元旅行会社へ就職、萌さんは団体職員などを経て、ライターとして活動。プライベートではご結婚もし、2人のお子さんの子育てにも励んでいたのだと言います。

「いつかは自分で旅行会社をつくりたいな…とは昔から考えていましたが、2019年に僕たちにとって3人目・4人目の子となる双子の妊娠が発覚したんです。4人の子育ては生活スタイルも大きく変化するだろうと思い、家庭のためにも自由な時間を作りたいと、起業を決意しました」

お二人が始めに取り組んだのは国が推し進めるアドベンチャートラベル(AT)事業への参画です。
「ATとは、アクティビティ、自然、異文化体験の3つの要素のうち、2つ以上を組み合わせた旅行形態です。欧米の富裕層では人気が高かったため、インバウンドブームを背景に国や自治体が推し進め、北海道では2021年に『アドベンチャートラベル・ワールドサミット』の開催が予定されていました(2023年に延期開催)。このサミットの開催に合わせ、僕たちも小樽でのトレッキングツアーや札幌中心部でアイヌ文化に親しめるツアーなどを企画し、DOA(デイ・オブ・アドベンチャー)の事業として採択されました」

ところがそのタイミングで新型コロナウイルスが蔓延。緊急事態宣言が出され、不要不急の外出が禁止されるなど、観光業界全体が大きなダメージを受けます。
「サミットも延期が確定してしまいました。でも、そんな中だからこそ僕たちにとっては人と会う機会を得たり、ユニークな企画を考えたりできると前向きにとらえて、その期間は準備に徹することにしたんです」

市民ガイドが生む化学反応のような面白さ。

エゾシカ旅行社の主な事業は、旅行の手配、ツアープログラムの企画やコンサルティング、ツアーの運営の3つ。さまざまな企画に取り組んだ中でも好評なのが、2023年10月から開催している「闊歩札幌」です。

参加客は札幌市内をガイドと共に徒歩で移動し、さまざまなスポットを巡ります。ガイドは地元の大学生や、普段は観光とかかわりのない会社で勤めている人、古地図の研究家や食通など、実にさまざま。「ガイドが変わることで全く違う視点が加わるのが闊歩札幌の魅力です」と萌さん。
「例えば札幌市時計台であれば『札幌農学校の演舞場として建設され…』と、歴史の話をするのが一般的ですよね。しかし闊歩札幌では、建材として使われている札幌軟石の話をしたり、なぜ赤い星がシンボルとなっているかというクイズを出したりと、お客様とコミュニケーションを取りながら、街全体に興味を持ってもらえるようなガイドをしています」

他にも〝はしご酒〟を行う「札幌バーホッピング」コースでは、参加客の好みに応じて行く店を選ぶというユニークな試みも。
「ビール好きの参加者が多ければクラフトビールのお店に、日本酒好きな方が多ければ、地酒を提供しているお店にと、お客様と相談しながらコーディネートしています。ガイドを勤めるのはススキノのお店に詳しい人や食通の方です。思わぬ話題で盛り上がったり、予想だにしないお店にたどり着いたりと、その時、その場にいるお客様とガイドでしか生まれない、化学反応のような面白さがあるんです」

ガイドの数だけ魅力がある観光都市にしたい。

ユニークな企画の背景には、どんな思いがあるのでしょうか。宏樹さんは「僕たち二人が、札幌市外の出身であることも大きいです」と話します。
「僕は出身が愛知県で大学は沖縄、妻は旭川市の出身です。大学院生のころから二人でさまざまな地を訪れましたが、札幌は自然と都市が調和し、四季ごとに生活やレジャーのスタイルがガラリと変わるユニークな街だと感じていました。一方で、長くこの地に住む人はこの魅力を実感しておらず、観光産業に対してもどこか距離を置いている印象です。闊歩札幌では地域ぐるみで観光の魅力を発信することで、観光客だけでなく市民のみなさんにも街の魅力を再発見してほしいという狙いがあります」

萌さんは、企画を通じて観光業界の働き方も変えたいと話します。
「私はフリーライターとしても働いていますし、夫も大学講師をしたり、街づくりにもかかわったりと、本業にとらわれない活動をしています。ツアーガイドという仕事が副業として一般的になれば、観光産業はもっと盛り上がるはずです」

最後に、お二人にとっての札幌の魅力を伺うと、萌さんがこう答えてくれました。
「観光資源は数あれど、人の面白さではないでしょうか。ガイドの数だけ新しい魅力を発見できる、そんな可能性のある街だと信じています」

株式会社エゾシカ旅行社

2020年創業。札幌ならではの都市と自然とを調和させた独自のツーリズムを提案。「アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道」事業への参画や、「札幌国際芸術祭(SIAF)2024」とのコラボ企画、ニセコ発酵ツーリズム推進協議会の活動にかかわるなど、地域振興にも意欲的。
北海道札幌市中央区北1条西16丁目1-36
https://www.ezosika.co.jp/

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