注目企業のトップに聞くin北海道【株式会社青山】
2021年12月6日 公開
ICT化は職員が介護の「原点」を大切にでき、この仕事の価値も高められるツールです。
北見市出身。医療科学専門学校、東北福祉大学を卒業後、言語聴覚士として病院勤務。2006年に株式会社青山を設立。その後、札幌・旭川を中心に道内各地に高齢者の介護施設を展開中。
情報の「見える化」と、原則「電話ゼロ化」。
5年程前のことでしょうか。きっかけは介護職の負担があまりにも大きく、常に100%で仕事に取り組んでもキャパオーバーせざるを得ない働き方が、業界内でも世間からも「普通」だと思われている状況に違和感を覚えたことです。我が国の社会福祉として高齢者介護は間違いなく必要な分野にもかかわらず、いわゆる「3K」のイメージを持ち続けている世の中を変えたい…そのためには会社も経営者である私自身も変わらなければならないと、ICT化に乗り出しました。
―具体的には?
まずは、業務上の情報をデジタルで共有できるシステムを取り入れました。現場の介護スタッフは食事や入浴介助、リハビリ以外にも、介護記録をはじめとする書類作成業務にも追われています。そのため、スマホ・タブレットでスピーディーに記録・共有ができ、レセプト(介護請求)や車両の管理も指先一つでできる仕組みを整えました。他にも、ビジネスチャットツールを導入し、原則として電話の連絡をゼロにしています。
―原則、電話連絡がゼロ!?
一般的な会社組織にも当てはまりますが、現場スタッフが中間管理職に困ったことを相談しても社長に伝える前にブラックボックス化してしまったり、単純に「言った・言わない」のトラブルが発生したり、「一対一」の電話や会話だけでは情報が隅々まで行き渡らないことも多いはずです。当社では私や本部にも自由に意見が伝えられるよう社内チャットを「見える化」していますし、新しい施策を行う過程も追えるのでワンチームとしての意識も高まると考えています。もちろん、対面を否定しているわけではなく、文字のやり取りだけでは難しいことはオンライン会議や面談も活用しています。
ショートステイの心労を軽減するセンサー。
当社は、本部機能として「働き方」「コンプライアンス・クオリティ」「財務・物品」「IT・IR」といった事業部を置いています。介護業界では施設管理者に出勤簿作成や労務、細かいところでは「電球の交換」まで、とにかく現場の仕事以外のウエイトが重くのしかかるものです。ところが、当社では施設の破損は本部に報告すると修理業者を手配するなど、管理者が現場を見る時間を増やし、介護スタッフとコミュニケーションがとれるよう工夫しています。
―最近のICT化のトピックスは?
大手IT企業のコニカミノルタと連携し、利用者様の各部屋に行動分析センサーを導入しました。北海道の「令和2年度介護事業所生産性向上推進モデル事業」にも選定されています。
―行動分析センサーとは?
離床や起床、転倒、転落などを検知し、ケアコールや映像をスマホ・PCに通知してくれるシステムです。例えば、以前は利用者様のお布団が落ちただけでも都度お部屋に訪問していましたが、今は必要な時だけケアコールが通知されるため、2時間に1回の見回りがほぼ0回で済むようになりました。呼吸や心拍も検知するため、異常がある時にはすぐに駆け付けられます。
―すべての施設に導入を?
いいえ、高額なので…(笑)。まずは旭川のショートステイと札幌屯田のデイサービス・有料老人ホームに導入しています。とくに、ショートステイは介護業界のER(救急救命室)とも言われ、ご家族の急用などで突発的に利用されるケースが大半です。世の中になくてはならない介護施設の反面、介護職にとっては初めて会う高齢者をケアすることが圧倒的に多いため、体調や人生の背景について分からないことが多く、かなり心労が大きいと思います。その負担を少しでも軽くしたいと考えて、ショートステイに取り入れたわけです。
介護の「原点」をいつも感じられる企業へ。
業務量自体は1日あたり20〜30分削減できましたが、ただ楽になることだけが目的ではありません。利用者様は介護スタッフの温かな言葉や寄り添う気持ち、手と手で伝わる優しさを求め、職員も笑顔や「ありがとう」を受け取れるのがこの仕事の素晴らしさです。けれど、その原点すら思い出せず、忙殺される日々を送りがちなのが介護業界の現状と言えます。各種システムによって業務にも心にもゆとりを生むことで、仮に利用者様が最期を迎えても、後悔しないくらいかかわりを持てる企業へと成長することが私の目標です。更に、世間がそんな仕事ぶりを見て、介護職の存在価値を見直すことも目指しています。ICT化はそのためのツールですし、使いこなす人のヒューマンスキルもより高めなければなりません。手応えや成果をお伝えできるのは、まだ少し先だと思っています。
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行動分析センサーの映像。仮に転倒しても正確な状況を把握でき、次の事故を防ぐ対策もできます。
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コニカミノルタと連携した行動分析センサー。通知はスタッフのスマホに共有されるため、ケアコールの見逃しも防げます。
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利用者様の食事の量や体調などは、すべてスマホで記入・管理。煩雑な事務作業から解放されます。
株式会社青山(本部)
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