不可能を可能にしたい。幼いころの夢を形にした気球による宇宙遊覧の旅。【株式会社岩谷技研】
2025年6月2日 公開
気密キャビンを搭載したガス気球で、特別な装備や訓練もなく誰でも気軽に宇宙遊覧ができるサービスの提供を目指す株式会社岩谷技研。完成したガス気球1号機「かざぶね」は2024年に飛行試験に成功し、2025年夏には一般市民を乗せたフライトを予定している。代表を務める岩谷さんに、起業に至るまでの道のりや今後の展望について伺った。
一冊の絵本がきっかけに。「宇宙にかかわる仕事がしたい」
福島県出身。幼いころから人一倍探求心が強かったという岩谷さん。幼稚園の時『宇宙ステーション』という絵本を読んだ時の驚きと感動を今でも覚えているという。
「自分の住む地球の外に、宇宙という別世界が広がっていると知って驚きました。そして知恵と工夫と勇気があれば、これまで行けなかった世界へも行くことができると分かり感動したんです。私の原点にある『宇宙にかかわる仕事がしたい』『不可能を可能にしたい』という考えは、この絵本がきっかけで生まれたのかもしれません」
大きくなってもその思いは色あせることなく、岩谷さんは航空宇宙分野の研究を目的に北海道大学工学部機械知能工学科へ進学する。
「入学当初は宇宙への道を切り開くための道具を作りたいと考えていたのですが、大学でロケット製作について学び、その労力と費用の大きさに愕然としました。およそ40〜60万点ものパーツそれぞれの製造工程を学ぶ必要があり、かかる資金も数千億円という気が遠くなるようなものだと知ったんです」
圧倒され立ち尽くす岩谷さんだったが、そんな時にある海外ニュースが目に留まったのだという。これが後に未来を大きく変える転機となった。
「アメリカの大学生が風船にカメラを付けて飛ばし、宇宙からの景色の撮影に成功したという内容でした。とっさに『やってみたい』と思い、そのまま資材を集めるためにホームセンターや雑貨店に足を運んだんです」
「自分の住む地球の外に、宇宙という別世界が広がっていると知って驚きました。そして知恵と工夫と勇気があれば、これまで行けなかった世界へも行くことができると分かり感動したんです。私の原点にある『宇宙にかかわる仕事がしたい』『不可能を可能にしたい』という考えは、この絵本がきっかけで生まれたのかもしれません」
大きくなってもその思いは色あせることなく、岩谷さんは航空宇宙分野の研究を目的に北海道大学工学部機械知能工学科へ進学する。
「入学当初は宇宙への道を切り開くための道具を作りたいと考えていたのですが、大学でロケット製作について学び、その労力と費用の大きさに愕然としました。およそ40〜60万点ものパーツそれぞれの製造工程を学ぶ必要があり、かかる資金も数千億円という気が遠くなるようなものだと知ったんです」
圧倒され立ち尽くす岩谷さんだったが、そんな時にある海外ニュースが目に留まったのだという。これが後に未来を大きく変える転機となった。
「アメリカの大学生が風船にカメラを付けて飛ばし、宇宙からの景色の撮影に成功したという内容でした。とっさに『やってみたい』と思い、そのまま資材を集めるためにホームセンターや雑貨店に足を運んだんです」
挫折と数々の失敗を経て。風船カメラで撮る宇宙。
岩谷さんが風船による宇宙撮影に取り組み始めたのは大学4年次、2011年の秋だった。地上と上空との温度差によるカメラの結露、気象の影響による装置そのものの振動で撮影は難航。更に幾度ものアクシデントに見舞われ、風船ごとカメラが海上に落下するなどの失敗も続き、あきらめかけていたという。しかし挑戦から1年が経とうとしていたころ、奇跡が起きた。
「海に落ちたカメラが浜辺まで流れ着き、偶然にもそれを拾ってくれた人がいて。カメラに書いてあった大学名と私の名前を見て、連絡をくれたんです。手元に戻ってきたカメラのSDカードからどうにかデータを読み込むと、そこにははっきりと宇宙の風景が写った1枚の写真が残されていました」
曇りやブレもなく撮影されたその一枚を眺めながら、「あきらめずに続けていこう」と思い直したという岩谷さんだったが、決して手元の写真に満足していたわけではなかったという。
「過去最高の出来栄えだったのは事実ですが、『こんなものしか撮れなかった』『もっと良いものが撮れるはずだ』という悔しさのほうが大きかったように思います。私は成功をゴールだと思ったことがありません。そこに至るまでの過程の中にも、目を凝らせば小さな失敗が必ずあるものです。それらに真摯に向き合い、更に良い結果を生み出すことが重要だと常に考えているんです」
「海に落ちたカメラが浜辺まで流れ着き、偶然にもそれを拾ってくれた人がいて。カメラに書いてあった大学名と私の名前を見て、連絡をくれたんです。手元に戻ってきたカメラのSDカードからどうにかデータを読み込むと、そこにははっきりと宇宙の風景が写った1枚の写真が残されていました」
曇りやブレもなく撮影されたその一枚を眺めながら、「あきらめずに続けていこう」と思い直したという岩谷さんだったが、決して手元の写真に満足していたわけではなかったという。
「過去最高の出来栄えだったのは事実ですが、『こんなものしか撮れなかった』『もっと良いものが撮れるはずだ』という悔しさのほうが大きかったように思います。私は成功をゴールだと思ったことがありません。そこに至るまでの過程の中にも、目を凝らせば小さな失敗が必ずあるものです。それらに真摯に向き合い、更に良い結果を生み出すことが重要だと常に考えているんです」
誰もが宇宙を遊覧できる時代へ。培った技術を宇宙開発の糧に。
その後もよりクオリティの高い写真を撮ろうと研究・開発を続けた岩谷さん。次第に撮影した画像や、カメラを飛ばして宇宙を撮影することそのものに社会的需要があると気付き始めたという。
「徐々に広告制作の依頼や、科学実験に協力してほしいという問い合わせが来るようになりました。好奇心から始めた風船カメラの研究・開発でしたが、誰かに必要とされるのであれば事業として成立するかもしれないと考えるようになり、2016年、株式会社岩谷技研設立に至りました」
2020年以降、岩谷さんはガス気球に旅行用機密キャビンを搭載した有人気球の開発にも着手。特別な装備や訓練もなく、誰でも気軽に宇宙遊覧を楽しむことができるサービスを考案した。
「2024年には飛行試験を終えていて、高度は国内で最も高い2万816メートルを達成しました。さっそく2025年夏には1号機『かざぶね』が一般市民を乗せてフライトを予定しているところです。飛行時間は4時間程度で、そのうち約1時間は宇宙と地球の輪郭を眺めたり、持参したカメラで宇宙風景を撮影したりもできます」
自分が作った装置で、宇宙が見える高さまで人を運ぶ。それはまさに「宇宙にかかわる仕事がしたい」「不可能を可能にしたい」という、岩谷さんが幼少期から温めてきた思いと重なるものだった。
「岩谷技研は今後も不可能を可能にするための事業展開を目指していきます。日本は他国に比べ、まだまだ宇宙開発分野において先進国とは言えません。しかしひと度開発への取り組みがなされ探求の時代が訪れれば、気球開発の中で培った多くの技術がきっと役に立つ日が来るでしょう。そのためにも私たちは日々科学的思考に基づいて挑戦し、成功も失敗も共有し、成果を形として残し続けていきたいと考えています」
「徐々に広告制作の依頼や、科学実験に協力してほしいという問い合わせが来るようになりました。好奇心から始めた風船カメラの研究・開発でしたが、誰かに必要とされるのであれば事業として成立するかもしれないと考えるようになり、2016年、株式会社岩谷技研設立に至りました」
2020年以降、岩谷さんはガス気球に旅行用機密キャビンを搭載した有人気球の開発にも着手。特別な装備や訓練もなく、誰でも気軽に宇宙遊覧を楽しむことができるサービスを考案した。
「2024年には飛行試験を終えていて、高度は国内で最も高い2万816メートルを達成しました。さっそく2025年夏には1号機『かざぶね』が一般市民を乗せてフライトを予定しているところです。飛行時間は4時間程度で、そのうち約1時間は宇宙と地球の輪郭を眺めたり、持参したカメラで宇宙風景を撮影したりもできます」
自分が作った装置で、宇宙が見える高さまで人を運ぶ。それはまさに「宇宙にかかわる仕事がしたい」「不可能を可能にしたい」という、岩谷さんが幼少期から温めてきた思いと重なるものだった。
「岩谷技研は今後も不可能を可能にするための事業展開を目指していきます。日本は他国に比べ、まだまだ宇宙開発分野において先進国とは言えません。しかしひと度開発への取り組みがなされ探求の時代が訪れれば、気球開発の中で培った多くの技術がきっと役に立つ日が来るでしょう。そのためにも私たちは日々科学的思考に基づいて挑戦し、成功も失敗も共有し、成果を形として残し続けていきたいと考えています」
株式会社岩谷技研
2016年、江別市に設立。北海道の広大な敷地を利用して、高高度ガス気球とその他宇宙関連技術の開発に携わる。2020年からは有人気球開発への取り組みを開始。2024年には国内初となる高度20㎞超での飛行試験に成功。宇宙の入り口である成層圏までの遊覧フライトサービスは、商業運行実現を目指して技術研究・開発が進められている。

BOSS TALK
本インタビューはUHB(北海道文化放送)のトーク番組「BOSS TALK」とのコラボ企画により収録されました。
北海道を愛し、北海道の活性化を目指す“BOSS”が北海道の未来と経営について楽しく、真剣に語り合う“TALK”番組。独立するまでの道のり、経営者としての思い、転機となった出会いや目指す未来などを語ります。
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