北海道でSDGsの目標達成に貢献する企業・団体 北海道でSDGsの目標達成に貢献する【井上税務会計事務所】(札幌市)

2022年8月22日 公開

LGBT(性的マイノリティー)の人々は、人口の8.9%、11.2人に1人の割合(※)で存在すると言われています。こうした社会的な認識を背景に2017年、札幌市では「札幌市パートナーシップ宣誓制度」を制定。誰もが生きやすい社会の実現に向けて、企業や団体を巻き込んだ多彩な取り組みを進めていますが、当事者に向けたアンケートでは半数以上が「職場にサポートがない」と回答するなど、働く環境の整備は道半ばというのが現状です。
そんな中、2015年から顧客企業へ向けたLGBTの啓蒙活動に取り組んできたのが、札幌市豊平区に社屋を持つ井上税務会計事務所。活動のきっかけや今後の展望について、所長の井上奈穂子さんに話を伺いました。

(※)電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2018」より

経営者に近い立場から、職場でのLGBT理解を進める。

LGBTへの理解は「誰もが生きやすい」ダイバーシティーの一環。

井上税務会計事務所は井上所長の父が1973年に開業。税務代理や記帳代行といった税務、会計業務のほか、経営コンサルティングなど企業のパートナーとして活動してきました。顧客の多くは札幌に本社を置く中小企業です。

井上さんは2007年に事業を継いで以来、夫で経営コンサルタントの善博さんと共に、経営者向けのセミナーを開催してきました。しかし、その内容はITの活用や海外進出など経営に関するテーマがほとんど。一体なぜ、LGBT理解への啓蒙活動を始めたのでしょうか。

「きっかけはセミナーの企画担当者からの『LGBTに関するテーマをとりあげてみませんか』というひと言。性的マイノリティーについては何の知識も持ち合わせていなかった当時の私にとって、その提案は実に衝撃的でした。と同時に、知らず知らずのうちに当事者を傷つけていたかもしれないという思いも頭を掠めたんです。スタッフに詳しい話を聞くと、知り合いに詳しい方がいらっしゃるとのこと。まずは直接会って私自身が学ぶ事から始めました」

紹介を受けたのは、現在も共に活動するフリーランスの記者・編集者の浅利圭一郎さんと「北海道LGBTネットワーク」代表の桑木昭嗣さん。実際の話を聞き、井上さんは目から鱗が落ちるような感覚を覚える一方、LGBTを身近にも感じたと振り返ります。

「その理由は2人がLGBTだけに優しい社会を目指したいのではなく、『ダイバーシティー』として誰もが生きやすい社会を目指している点でした。いうなれば、外国人が生きやすい社会を目指すのと同じ感覚なんです」

実は井上さん、夫の善博さんと共に20年以上前から海外留学生のホームステイを受け入れてきたのだとか。人数は20人以上にも及び、国籍もアジアからヨーロッパまでさまざま。その功績が評価され、2016年には高校生の交換留学を支援している国際団体、AFSから賞も与えられています。
「長年にわたり外国人と生活し、時には職場での受け入れも行ってきたことから、多様性がもたらす好影響や波及効果を肌で感じてきたんです」

多様性を尊重する企業は誰もが働きやすい環境を育むため、優秀な人材の採用や定着を実現するばかりではなく、ユニークなアイデアやイノベーションも生まれやすくなる、というのがダイバーシティーに関する定説。
「ダイバーシティーを進めるということは、倫理上だけでなく経営上にも多大なメリットを生み出します。私は税理士という立場上、毎月多くの経営者とお会いする機会に恵まれているので、こうしたメリットを含め、LGBTへの理解やダイバーシティーの啓蒙に取り組んでみようと思い立ったわけです」
その後井上さんは、事務所で「LGBTフレンドリー宣言」を発表。さらに弁護士である奥山倫行さんも招き入れ、4人で「LGBTを当たり前化する」を合い言葉に活動をスタートさせました。

言葉だけが先行し、誤解が残る現状を変えていきたい。

2015年4月、初開催のLGBTセミナーに訪れた方はおよそ80人。当然ながら認知度は低く「LGBTについて知っている方」という問いかけに挙手したのは、わずか4、5人ほどだったとか。しかしLGBTの企業向け啓発の事例が少なかったことが幸いし、多くのメディアがこの取り組みに注目。報道やネットニュースなどを通じ認知の輪が拡大し、さらに回を重ねるに従い、反響も大きくなっていきました。

「従業員数100人以上の大きな企業の代表がLGBTアライ(=理解者)宣言をしてくれたという事もありました。経営者の行動は他の企業や社員への啓蒙につながりますので、大変勇気付けられる出来事でした」

社会全体でも、2015年11月に東京・渋谷区が日本で初めてのパートナーシップ証明制度を設けたのを機に、LGBT理解へ向けた気運が上昇。昨今では保険金の受取人として同性のパートナーを指定できる仕組みや、携帯電話の家族割引への適用など、民間にもその取り組みが広がりつつあります。しかし「それでも、言葉だけが先行して理解している人はまだ少ないんです」と井上さんは語気を強めます。

「経営側が根拠なく『ウチの会社にはいない』と決めつけてしまう例や、カミングアウトを希望していない方に強制する例、職場や学校でアウティング(本人の了解を得ずに性的少数者だと暴露されてしまう事)に遭う例などは後を絶ちません」

また区や市町村単位での条例制定は進んでいるものの、国や都道府県といった規模では施策が行われていないという現状も。その背景には「従来の家族観を破壊する」「少子化が進行する」といった根拠の無い偏見や、LGBTが生まれつきの「性的指向」ではなく「性的嗜好(趣味)」であるという誤解もあるようです。

「かくいう私自身も学びの最中。LGBTやダイバーシティーを100%理解しているとは言えません。しかし私たちのセミナーや当事者の声を一度聞いただけでも大きな進展につながります。まずは理解しようとする人が一人でも増えるよう、この活動を続けていきたいと思います」

SDGsは「誰一人取り残さない」をスローガンとし、17の目標を達成して得られる恩恵が、全ての人に与えられる事を前提としています。人種や国籍の違いと同様に、LGBTについても理解を進めることが、SDGsに取り組む第一歩かもしれません。

井上税務会計事務所

北海道札幌市豊平区豊平3条2丁目1-29トランスビル
TEL.011-822-0671
http://www.inoue-tax.jp/index.html

北海道でSDGsの目標達成に貢献する企業・団体

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