イノベーションに必要なのは、向こう見ずな若者のパワー。【株式会社岩谷技研】
2022年6月20日 公開
発明家を目指すには、起業の道しかなかった。
高校卒業後、オープンキャンパスで訪れた北海道大学の美しさに感激し、工学部へと入学する。岩谷さんは宇宙工学を専攻する中で、製造に膨大な時間とコストのかかるロケットではなく、誰もが気軽に宇宙にたどり着ける方法を模索した。
転機が訪れたのは2011年。海外の大学生が風船にカメラを取り付けた装置で上空からの撮影に成功したというニュースがヒントになった。岩谷さんは同様の手法を用いて、たった一人で何度も試行錯誤を重ねながら、翌年には上空30kmから青い地球の姿を撮影することに日本で初めて成功した。宇宙は思った以上に身近だった。
卒業後の進路は、研究者や就職ではなく起業。茨の道にも思えるが…。
「根がせっかちなんです。研究職にしても企業の開発部門にしても、好きなテーマを自由に研究できる立場になるには長い時間が必要ですし、運にも左右されます。発明家への最短距離を歩むには、起業してお金を稼ぎながら研究を続ける道がベストでした」
スケールの大きな地で有人飛行実現を目指す。
「気球を使った成層圏までの旅は、低コストで安全性が高く、特別な訓練の必要もありません。ごく一部の富裕層や宇宙飛行士だけではなく、誰もが宇宙レジャーを楽しむための最も実現可能で現実的なプランだと確信しました」
一方で有人飛行を目指すためには、大型の気球を開発する設備と安全性のテストを重ねるための広大な土地が必要不可欠。その条件をかなえられる場所が北海道だった。
「土地の条件だけではなく、母校の北海道大学からインターン生や社員を募りやすい点もメリットです。さらに大樹町の航空宇宙産業基地を中心に、宇宙に関する最先端情報が集まるところも魅力でした」
誰もが宇宙に行ける時代を実現したい。
「好きなことしかせず、やりたいことに向かって突っ走る。起業やイノベーションは、僕のように若さに任せた向こう見ずな力が道を切り開くケースも大いにあると思います」
2022年2月、自社開発のガス気球に吊った気密キャビンに岩谷さん自身が乗り込み、最大高度30mに長時間留まることに成功。今夏には富士山と同じ高度(3.7km)までの有人飛行、秋から冬にかけては成層圏までの実験を計画している。安全性の確保さえ実証できれば、理論上では気球に乗り、地球を一望できる高度25〜30kmまでの宇宙旅行は実現可能な段階だという。
取材を終えようとした時、岩谷さんは「正直、私自身が宇宙に行くことには、いまだに興味がないんです」と驚くようなことをつぶやいた。
「不可能といわれていることを可能にしたいというのが僕の原動力です。だって、宇宙旅行が人生観を一変させること自体は、すでに先人たちによって知られていますからね。その体験を身近にするためのプロセスを開発し、多くの人の〝未知〟を〝既知〟にするところが最高に面白いんです」
株式会社岩谷技研

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