灯油配達効率化から他の分野にも。IoTとAIで広がる思いやりの技術。【ゼロスペック株式会社】
2022年10月21日 公開
ニトリで培った、努力の方向を見定めるビジネスセンス。
「ニトリが取り組む流通ビジネスや商品開発、販促活動などの成功事例を間近で見て、自分自身も体感させていただけた貴重な時間でした」
およそ10年の勤務の中、多田さんの心に強く残ったのが「努力の方向を間違ってはいけない」という代表のひと言。
「努力をすることは大切。けれどその目的や方向性が現状課題とずれていたなら、結果的にその努力は徒労に終わってしまう。何に向かって努力するのかを熟考しなさいという的を得たアドバイスでした」
その言葉を胸に独立を決めた多田さんが着目したのが、一般家屋の外壁に寄り添うように取り付けられている無機質なベージュの箱。道民なら誰もが目にしたことのある、あの灯油備蓄用のタンクだ。
「北海道や東北の暖房エネルギーの要となるのが灯油。特に地方はこの灯油を確保することが、冬の暮らしの生命線になっています。しかし近年、業者の高齢化や人手不足、採算性の悪化などにより、『灯油配送』が危機的な状況を迎えつつある…。この北国ならではの課題に挑戦しようと思い立ちました」
無策を貫けば、遠くない将来農山漁村で『灯油難民』が発生するという予測も。もう後回しにしている時間はない。ここから多田さん率いるゼロスペックは、灯油備蓄用のタンクを取り巻く諸事情と向き合うことになった。
家庭用灯油の配送を最適化する画期的なシステムを開発。
「ご家庭も配送業者と契約しないと死活問題だけれど、少量の配送だと1回の配送料が割高になるという二重苦に苛まれていました」
こうした課題解決のために同社が開発したのが、灯油残量をリアルタイム計測できるIoTデバイス。灯油タンクのキャップ型で、そこに付帯するセンサーが灯油量を自動計測。そのデータは配送業者のPCやスマホなどに毎日配信されるため、業者は遠隔地にいながらにして給油のベストタイミングを把握し出動することが可能となる。ちなみにこのシステムの呼称は「GoNOW」。なるほど、ツボを得ている。
「配送業者は従来より少ない配送回数で同量以上の灯油を効率的に配達できるようになるため、人手不足や過酷な労働環境などの課題から解放されますし、収益の拡大も期待できます。家庭もタンクの灯油切れの不安に苛まれることがなくなります。双方にとってウィンウィンの状況が生まれるわけです」
とはいえ、いくら優れた仕組みでも高いコストや導入の煩わしさが目に付いては普及しないのが世の常。しかしその点も多田さんは抜かりない。
「キャップのセンサーは誰でも10秒で取り付けできますし、コストもかなり絞っていて、『この金額は月額ではなくて年額ですか?』とお客様に驚かれることもあるくらいです。優れたサービスを大手だけでなくすべての配送業者にも活用いただけるよう、ポピュラープライス(気にしないで買える価格帯)で提供できることを目指しています。これもニトリで学んだことです」
灯油配達の効率化は「通過点」。他分野へ広がる思いやりの技術。
「現在販路は長野や沖縄を含む36都道府県に広がり、契約企業数は500件に達する勢いです。「作業効率が格段に上がった」「収益アップにつながった」「残量の心配がなくなった」など、導入した企業や家庭から寄せられる評判も上々。まもなくキャズム(最初の停滞)の時期を超え、一挙に知名度が広がっていくのではと期待しています」
反響はスタートアップ企業の中でもトップクラス。経産省「北海道起業家万博賞」、総務省「ICT 地域活性化大賞2019」、NoMaps 「起業家万博最優秀賞」など、行政や関連団体から寄せられる評価も非常に高い。しかし多田さんはここはまだ通過点だという。
「IoTセンサー感知とデータ管理という、この仕組みは他の燃料をはじめさまざまな分野に応用できますし、ビッグデータの解析というさらに広い観点からなら、ビジネスチャンスは無限に広がる気がします。ただしそれが己の利益のためなら成功しないでしょう。自分が目指すビジネスの根幹にあるのは、北海道のため、地域のためという思い。そこに共感する仲間や若者たちの輪を広げることも、自分の大切な役割だと思っています」
ゼロスペック株式会社
https://www.zero-spec.com/
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