フュージョン株式会社 代表取締役会長 花井 秀勝
2020年3月1日 公開
データ×AI×マーケティングで、札幌にイノベーションを起こしたい
最近はAIを使った「予測モデル」の活用が耳目を集めている。

フュージョン株式会社 代表取締役会長 花井 秀勝
はない・ひでかつ
AMAマーケティングスクール応用研究科修了。北海道大学勤務後、印刷会社に入社。1991年に知識融合化法の適用による全国初の企画・情報加工サービス企業としてフュージョン株式会社を設立。2017年札証アンビシャス上場。
―「データ」に着目したきっかけを教えてください。
私は1970年代にアメリカに渡り、企業が消費者に直接アピールするダイレクトマーケティングを学ぶうちに、日本でもその必要性が高まる予感を抱きました。当時はインターネットがありませんから、商品の紹介や販売には紙媒体が不可欠。最初のうちはダイレクトメールに力を入れていました。
ただし、どのエリアにどんな人が住んでいるのか分からなければ、「無駄打ち」も多くなりますよね。そのため、たとえば持ち家が多い地域、賃貸物件に住む学生さんが集まる場所というような地域分析を進めてきました。
1984年ごろになると、オフィスコンピューターが登場。各種統計書やデータ集が印刷物で報告されてはいるものの、出版後は活用されることもなくそのままの状態でした。これらをコンピューターに取り込めば、将来的にデータの集計や分析がしやすいのではないかと着目したんです。
実際、通産省(現経済産業省)の事業としてデータベース構築の補助金委託研究を北海道の民間企業で初めて受けることになりましたし、1991年にはコンピューター高度化事業の研究開発として日本で初めて知識融合化法人の認定を受けて当社を設立しました。
データの読み解きから、若者に響く紙媒体も制作
そうですね。創業当初の1990年代初頭はスーパーマーケットの出店調査やPOSレジ(お客様の販売情報を管理するシステムが搭載されたレジ)のシステム開発に乗り出しました。数年後にはAmazonが登場し、ECサイトや通販において顧客分析がポイントになりそうとも感じたんです。
私たちはPOSレジを導入した各店舗のデータをオンラインで結ぶ独自のシステムを築いたところ、ありがたいことに評判は上々。その顧客や購買のデータを分析・解析し、ダイレクトメールをはじめとする多彩なセールスプロモーションに活用しました。
我が国には多くの調査会社がありますが、当社の強みは何と言ってもデータの扱いに長けたクリエイターやプランナーが在籍しているところ。この「データ×クリエイティブ」を生かし、ドラッグストアや百貨店、化粧品メーカーなど多くの顧客を獲得しました。
―最近の紙媒体の反応はいかがですか?
今の10代、20代の方はデジタル社会の中で育ってきています。恐らく、ご自分宛てにダイレクトメールが届くという経験も少ないはずです。だからこそ、紙媒体は新鮮に感じられるように思います。
当社は大学のオープンキャンパスや入学案内資料のダイレクトメールを制作していますが、最近はSNSなどのデータを読み解きながら、若者の心をつかむユニークなデザインや加工を施しています。手紙を開くと立体的な造形が飛び出したり、週刊誌調の目を引くデザインに整えたり、「インスタ映え」の分析データに基づいたクリエイティブを行った結果、1万8,000通のダイレクトメールがSNSで16万人に拡散されました。
もっと身近な例で言えば、ECサイトで商品をカートに入れたものの、購入まで至らずに放っておいていることはありませんか? その「放置状態」を分析し、1〜2日以内に紙のダイレクトメールを届け、約3割の人がカート内に残っていた商品を購買したという業界事例も出てきています。
こうした取り組みからも、紙媒体の果たす役割はまだまだ大きいと言えるでしょう。
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同社は2017年に上場し、翌年札幌駅前にオフィスを移転。内装も実におしゃれ。
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同社が制作したダイレクトメールの数々。一つひとつのデザインもユニーク。
過去の顧客行動データから、未来の購買・需要を予測
当社に集まっている顧客や購買のデータは国内随一と自負しますが、通常のシステムでは膨大過ぎて解析に時間がかかります。そこでAIを利用して簡素化を図れば、レシートをはじめとする過去の顧客行動から未来の購買・需要予測が立てられると考えました。
実際、3年ほど前から北海道大学のAIの研究者である川村教授や、北海道大学発のベンチャー企業の株式会社調和技研とディスカッションしながら活用方法を探りました。AIによって商品の需要や来店の予測を立て、どういう商品を置くべきかプランを練るという実証実験でも大きな結果が出ています。
笑い話ではありませんが、売れ行きが悪い商品を棚から省いた結果、それを目当てにたくさんの買い物を楽しんでいたロイヤルカスタマーを逃すというケースもあるんです。AIを活用することで、そんな機会損失も防げると思います。
―今後の札幌のAIにおけるポイントは?
札幌にはAIに取り組む優秀な企業や大学研究室がたくさんあります。それらの取り組みを点で終わらせるのではなく、連携して大きなグループになることができれば、東京にも負けない競争力を得られるはずです。現に北海道大学と札幌市立大学、当社を含めるIT企業5社がAIビジネスを創出するための経済産業省のプログラムに取り組んでいます。私自身は医療データを分析し、顧客に検査を促すなど予防医療型のサービスにAIを活用できないか模索中です。
こうした人と人との接点を生み出してくれるのが「札幌AIラボ(space360)」。先日もシリコンバレーから来たエンジニアが3日間AIの教育やアメリカのIT業界の状況を話してくれました。ここはAI企業や産学官連携の拠点になると思います。
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「札幌AIラボ(space360)で幅広い世代の人と接するのも刺激になります」と花井さん。
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マーケティングを科学し、新しいビジネスシンボルを
札幌や北海道は「素材は良いのに、売り方が弱い」と多くの分野で言われます。とはいえ、自社データを読み解くのも一朝一夕の勉強では難しいところ。そこで、当社がAIによって将来の需要予測や購買予測のプランを立て、新商品の開発やプロモーションを提案することで札幌の企業に役立ちたいと考えています。マーケティングを科学する… つまり「データ」×「AI」×「マーケティング」によって札幌の市場にイノベーションを起こし、新たなビジネスのシンボルを作るのが今後の目指す姿です。
フュージョン株式会社

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