一橋大学 経営管理研究科 教授 神岡 太郎
2020年3月1日 公開
札幌らしいデータ活用で世界とつながる魅力的な都市に
マーケティング研究の第一人者として札幌のデータプラットフォーム活用推進に尽力。
一橋大学 経営管理研究科 教授 神岡 太郎
かみおか・たろう
北海道大学大学院 博士課程(行動科学専攻)単位取得退学。主な研究テーマは、マーケティングマネジメント、ITマネジメント、CMO、CIOなど。札幌市データ利活用促進検討委員会座長。工学博士。
―マーケティングで日本企業が後れを取っていると言われます。
日本の企業はもともとモノづくりが得意で、その技術力を武器に戦後大きく成長してきました。良いものを作れば売れるという考えはユーザーのニーズともマッチし、高機能、多機能な商品の開発に力を注いできました。しかし、社会が成熟してくると、企業がどれだけ高機能を謳っても、それだけではモノが売れなくなります。いわゆる「ガラケー」が良い例です。
一方、GAFAをはじめとする世界企業の多くは早くから顧客視点、ユーザー視点で商品やサービスの開発に取り組み、特にデータを活用したマーケティングによって成功を収めています。目まぐるしく変化する市場ではユーザーのニーズを的確に捉えることが必要であり、その点で日本がやや後れを取ったのは否定できません。今やデータ・マーケティングは、世界のあらゆる企業にとって最重要課題と位置付けられています。
マーケティング的な視点はまちづくりにも不可欠
企業におけるマーケティングの基本がユーザーを起点とするように、まちづくりにおいても市民が何を求めているかが議論の出発点になります。市民のニーズを明らかにするには、人々がいつ、どのように行動しているのか… といったデータの分析が不可欠で、データは行政が意思決定をする際のエビデンスにもなります。
―意思決定のエビデンスとはどういうことでしょう?
たとえば札幌市が新しい行政サービスを始める際、それが経験やカンに頼ったものでは説得力がありません。そしてもし取り組みが失敗した場合、その理由を明らかにすることもできません。
一方、データに基づく取り組みであれば、たとえ失敗しても、データそのものが間違っていたのか、データの見方が間違っていたのかなど、さまざまな検証ができます。
UberやAirbnbなど、海外のスタートアップ企業はそうしたデータの活用に長けていて、ユーザーが求めるサービスを次々に生み出しています。完璧でなくてもスピード感を重視して市場に投入し、ユーザーのフィードバックを改良に生かしていく。そうしなければ変化の速さに対応しきれないからです。
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テクノロジーとの向き合い方について解説した神岡教授の著作「デジタル変革とそのリーダーCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)」(同文館出版)。
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「日本の企業や行政は完璧を目指そうとするため、変化のスピードに追いつけない」と神岡教授。
官民データの統合プラットフォームは世界的にも先駆的なチャレンジ
「DATA-SMART CITY SAPPORO」というデータプラットフォームが構築されたことは、非常に画期的であると言えます。とりわけ行政が保有する人口や世帯数など「パブリック(公的な)データ」と企業が持っているユーザー購買歴など「プライベート(民間の)データ」を統合させることは、世界経済フォーラムでも「これからの課題」と言われており、それを先駆的に実現できた札幌市は最先端であると言っても過言ではありません。
また、札幌市にはデータの活用を推進するSARD(札幌圏地域データ活用推進機構)が組織され、私も立ち上げに協力させてもらいました。このような団体が組織されることも他都市では例がなく、注目に値するものです。
一方これからは、プラットフォームに置かれたデータをどう活用するかが重要です。データを分析するのは必ずしも専門家である必要はありません。一般市民が自分たちの暮らしを良くするためにデータを活用する「データの地産地消」が進めば、札幌の魅力がもっと高まっていくはずです。
―今後、世界的な都市間競争が加速すると言われます。
先進国はどこも人口減少に直面しつつあり、都市の活力を維持するための人口獲得競争が、国を超えて本格化していくでしょう。現在、その競争で一歩リードしているのが都市国家シンガポールです。シンガポールでは「One Government(ひとつの政府)」をスローガンに、官民が一体となってデータのオープン化を進めるなど、地元の人々が暮らしやすく、さらに、海外から見ても魅力的に映るまちづくりに取り組んできました。世界のハイテク企業やヘッドオフィスの誘致も積極的に行い、今、アジアの多くの若者がシンガポールで働くことに憧れを抱いています。
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2017年11月に札幌で開催された「人工知能&ビッグデータフォーラム」に登壇。人工知能技術戦略会議議長 安西祐一郎氏、北海道大学 長谷山美紀氏と共にパネルディスカッションにも参加。
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国際的なハブ空港や港湾を整備することで成長を加速させているシンガポール。
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四季折々の美しさを見せる北海道大学のキャンパス。「札幌はまだまだポテンシャルを生かす余地がある」と神岡教授。
戦略的なブランディングに「One Sapporo」で取り組んでいく
札幌は自然が豊かで食べ物がおいしく、ワークライフバランスが適切であるなど、高いポテンシャルを持っています。また、行政のトップである市長が、データやマーケティングの重要性をしっかり認識していることも、今後のまちづくりを進める上で大きな強みと言えるでしょう。
ただ、札幌がスマートシティを目指すためには、意識レベルでもトランスフォーメーションが必要です。たとえば、官民共に組織の風通しを良くしてデータの共有化をさらに進めたり、小さな失敗を恐れずにリスクを取って新しいサービスにチャレンジしたり。あるいは東京の下請け的な考えを止めて、海外の人たちと直接つながっていくという発想も大切です。
これまで北海道の人たちは、外から指摘されて初めて自分たちの良さに気付くことが少なくありませんでした。地元の人が目を向けていなかった飲食店や観光スポットに外国人が押し寄せているのに理由が分からない。後になって海外のSNSで話題になっていたことを知り、ようやくアピールを始める… つまりデータを生かせていないんです。
しかし、これからはデータを活用した戦略的なブランディングが不可欠です。札幌が札幌らしく輝くにはどうしたら良いか、まさに「One Sapporo」で挑んでいくことが重要になると考えています。
一橋大学
https://www.hit-u.ac.jp/
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