Smart AI City SAPPORO「SAPPORO×IT」 株式会社調和技研 代表取締役 中村 拓哉

2020年3月1日 公開

企業が抱える難題をAIエンジンでスピーディに解決

「北大発認定ベンチャー企業」として注目を集める株式会社調和技研。
グローバル人材や主婦が働くダイバーシティ経営と、大学との連携による最先端のAI技術を強みに急成長している。
【interview-2】
株式会社調和技研 代表取締役 中村 拓哉

なかむら・たくや
銀行に勤務後、大手ソフトウェア企業に転職。人事に携わり、東京以北の大学のリクルーティングを担当。その縁から2011年に株式会社調和技研に入社、その後代表取締役に就任。2019年6月に経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300社」を受賞。


―調和技研が生まれた背景を教えてください。
まずは原点とも言える北海道大学調和系工学研究室のご紹介から。この研究室は当社の取締役でもある川村教授が率い、人工知能をはじめとする先端的な研究に長く取り組んでいます。ただ、かつてはその研究成果を生かす場がなく、今とは違って大学と企業との共同研究も冷え込んでいた時代。どうせなら学生たちの取り組みを論文発表にとどめず、社会で試してみようと調和技研を立ち上げました。
一方、当時の私は大手ソフトウェア企業の人事や地域振興策の仕事に携わり、さまざまな大学の先生と親交がありました。北大もその一つで、川村教授の研究室を訪ねるたびに調和技研設立の話を聞いていたんです。そのころは企業人として優秀な若手社員の中にも大学の研究成果を生かせず、社会の現実に悩む人がいると肌で感じていました。私自身、会社で好きなことにトライし、パフォーマンスを高める働き方ができないかを模索していたんですね。そこで、調和技研の若者がチャレンジする姿を見て「彼らの縁の下の力持ちになろう」と2011年に会社に参加することにしました。私自身もベンチャーやテクノロジーの可能性に興味がありましたし、純粋に面白そうだと思ったのも本音です(笑)。

社員の自由な研究と事業がリンクする社風

―その後、仕事の獲得は順調に進みましたか?
正直なところ、しばらくの間は我慢の時期。社員が研究している技術を専門的な用語で説明すると難解に聞こえるため、私たちが手掛けたい事業をお客様に伝えるだけでも苦労の連続でした。ところが、4年ほど前にAIという言葉が世の中に浸透するに従って状況が一変。当社の提案が具体的にイメージしてもらいやすくなりましたし、東京の企業や研究所からAIに関する依頼が急増しました。
同時に札幌を盛り上げたいという思いがあり、AIを強みにした産業創出を目的に草の根的なイベントを行ってみました。すると、講演者や協力者も含めて約100名がアッという間に集まり、AIへの関心の高さに驚くばかり。その後、札幌市や産業振興財団によって、AI産業の活性化を目指す「札幌AIラボ」の立ち上げまで進みました。いよいよ、AIがリアルに使える時代となり、これからが勝負だと考えています。

実際にどのようなサービスをリリースしていますか?
当社は予測エンジンや推測エンジンなどの「数値系 AI」、文章要約エンジンや会話生成エンジンといった「言語系 AI」、画像分類エンジンや物体認識エンジンに代表される「画像系 AI」を、お客様の課題に合わせてカスタマイズしています。
たとえば、権威のある医師の診断内容を学習した画像処理を開発し、現場への応用を目指していたり、文章の中から違和感のある部分を抽出してアラートしたり、実際に企業や社会で活躍しているサービスも少なくありません。
ただし、当社は会社の成り立ちから個性的な社員ばかり。どちらかというと、一人ひとりが自由に取り組んでいることをお客様の課題解決に結び付けることが多いんです。スタッフの中には顔写真を取り込んで、浮世絵に変換するユニークな研究を続けている人もいます。一見、遊びのようですが、こうした研究で培われたものが実は当社の大切なノウハウとなっています。私としてはAIとアートと日本文化という観点から、まったく新しい事業に昇華できないか考えているところです。

外国人、お母さん、シニア…多様な人材が活躍するオフィス

―外国人の方も働いているのですね。
アジア圏を中心にドイツやブラジルなど7カ国の出身者9名が働いています。今後、ますます拡大するAIのマーケットで国内の人材だけに固執していては成長はないと考え、いち早く外国人の採用に着手しました。とりわけ、海外ラボの立ち上げも予定するほど力を入れている国がバングラデシュ。現地ではAIやIoTの勉強も盛んになり始め、研究することで社会を変えたいという気概を持った方が多いからです。
一方、日本人の採用についても、年齢や家庭の事情に関わらず才能のある人材を積極的に採用中です。当社ではすでに子育て中のお母さんが、時短や在宅の勤務によって仕事と家族との時間を両立させています。最近は大手企業でペットロボットを手掛けていた67歳のシニアを採用したところ、驚くべきスピードで会社に貢献してくれました。こうした多様な人材を取り入れることがお互いの刺激になり、会社の成長にもつながると思います。

―AI企業が切磋琢磨する中、目指す立ち位置は?
当社には博士号取得者も多く、AIの最先端のロジックや知識を身に付けた研究者がそろっています。ただし、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表される巨大プラットフォーマーを目指しているわけではありません。技術がオープン化されるAI市場において、社会の共通課題を解決するサービスを提供するスタイルとは対照的に、私たちは一社一社の課題を高度なAI技術で解決する独自のポジションを目指しています。
少子高齢化による人手不足が叫ばれる一方、多くの企業では手作業による処理もまだまだ多いはずです。そんな「人の仕事」を補うカギとなるのも私たちが研究するAIです。たとえば、食品製造の機械にAIを組み込むことで、圧倒的な効率化を進める研究が実用化の一歩手前です。これまでのSFチックなイメージではなく、リアルな企業活動にAIが活用され始めた今、個社ごとの経営課題を解決できる私たちの能力が最大限に生かせます。それは高い品質を真摯に生み出す日本のモノづくりだと考えています。

価格競争に飲み込まれない、ビジネスモデルづくりへ

―調和技研にあえて課題を課すとしたら?
今はラボ的な環境の中で、スタッフ一人ひとりが自由に研究と向き合っています。ただ、それができるのもスタッフの数が総勢30名程度という小さな会社だからです。次のステージでは、自由な雰囲気を残しつつ、どう組織を作るべきかが経営者としての責務。また、道内IT企業の多くはいつしか価格競争に飲み込まれ、縮小していった印象です。そのため、社員がトコトン研究した成果に対し、正当な対価が得られるビジネスモデルを構築することを課題に掲げています。一人ひとりが好きなコトを続けた結果、ワクワクした未来を創造できることを当社が示していきたいですね。

株式会社調和技研

札幌市北区北21条西12丁目2
北大ビジネススプリング 305号室
TEL 011-717-7017
https://www.chowagiken.co.jp/

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