北海道ビジネスニュース ミツバチが運んだ交流を次世代へ。 札幌発の都市型養蜂プロジェクト 「さっぱち」が歩んだ15年。

2025年11月10日 公開

札幌中心部のビルの屋上で養蜂に取り組んできた「さっぱち」こと、NPO法人サッポロ・ミツバチ・プロジェクト。2010年の設立以来、市民参加型の養蜂事業の他、商品開発やワークショップなどさまざまな事業を市民ボランティアと共に展開してきました。同NPO理事長の酒井秀治さんに、プロジェクトに懸ける思いや今後の展望を伺いました。
大通公園や街路に咲く花々にはぐくまれた「さっぱち」のはちみつ。色は採取した月ごとに異なり、9月が最も濃くなるそうです。(提供写真)

きっかけはカラス対策?
偶然の出会いから活動開始。

お話を伺った酒井さんは元々建築士であり、まちづくりの専門家。「さっぱち」立ち上げのきっかけは、意外なところにあったと話します。
「現在『アカプラ』の名称で親しまれている北3条広場の改修計画に携わっていた時のことでした。広場に飲食店を誘致し、オープンテラスの設置を検討していたころに、近隣にカラスが多いことが課題になったのです。そこで対策法を調べている過程で知ったのが『銀座ミツバチプロジェクト(通称・銀パチ)』の存在です。東京・銀座でビルの屋上で養蜂を行ったことで、周辺のカラスが減少したという一説を目にして、早速このプロジェクトの仕掛け人である田中淳夫さんに相談したのが、『さっぱち』の発端でした」
しかし知識や技術はおろか、道具の一つもありません。事態を急転させたのは、「銀パチ」の田中さんが新聞のインタビューで、札幌での養蜂の可能性について語った記事でした。
偶然にも新聞を見たベテラン養蜂家の城島常雄さんのご家族が連絡をくれたのだと言います。
「城島さんは佐賀県で60年間にわたり養蜂に携わってきた方で、第一線を退いて北海道に移住してきたばかりでした。即座に『この人しかいない!』と思った私は、ご自宅まで出向き、師匠になってほしいと頭を下げたんです」
運命的な出会いの元指導者を迎えたさっぱちは、2010年にプロジェクトをスタート。2012年にはNPO法人となり、大通付近のビルの屋上を活用した養蜂活動を開始していきます。

ミツバチが運んでくれた
多世代交流の場

酒井さんが仲間と共に始めた「さっぱち」は、意外な広がりを見せていきます。採蜜や瓶詰作業のためのボランティアを募ったところ、子どもからシニアまで世代を超えた多くの人が集まり、多世代が交流するコミュニティとしての役割を担うようになっていきます。
「定年退職をされた男性、子育てを終えたシニアの女性たち、養蜂家を志す中学生の男の子や、函館からわざわざ毎週足を運んでくれる親子…と、世代も職業も実にさまざまな方が集まりました」
そんなボランティアの中にはバーのマスターやイタリアンシェフもいたそうで、集まった人たちそれぞれの得意なことを生かして、スイーツやお土産などの商品も開発。
「市内各所での販売を通じて、知名度が向上して更にボランティアが増え…という好循環が生まれていきました。それぞれの個性や得意分野を生かし、自己実現の場として機能することで、持続可能なコミュニティになっていったのかもしれません」
ミツバチが運んでくれた多世代の交流は、時には思わぬドラマも運んできてくれたと言います。
「先にお話しした函館に住む男の子は、苦手な事は多いけれど養蜂はとても興味がある…という子で、技術を身に付けて自らで養蜂を始めるまでに成長してくれました。他にも、家族ぐるみで参加して『毎年の恒例行事』になった親子もいます。こうして『さっぱち』が人と人をつなぐハブになっていくのを見るのは、本当にうれしいことです」

全国や次世代への継承も
原点の「まちづくり」を大切に。

発足から今年で15年を迎える「さっぱち」。その活動は札幌のまちを超え、全国へと広がりつつあります。2023年には全国の養蜂事業者が集まり、一般社団法人ミツバチプロジェクト・ジャパンが発足。各地のはちみつを全国にPRしたり、はちみつ商品の共同開発や合同イベントの開催をしたりと、より活動の幅を拡げていくことが狙いです。
「活動を続けるなかで課題となってきたのが、ボランティアさんの善意に頼らずもっと還元できる仕組み作り。札幌市内だけでなく、全国へネットワークを広げて商品を届けることで、ソーシャルビジネスとして展開できる事業モデルを目指しています」
長い年月のなかで、メンバー達にも変化が起きています。酒井さんも建築や都市計画だけでなくコミュニティデザインの専門家となり、2023年からは北海道教育大学岩見沢校の准教授となりました。
「大学では『いわみざわミツバチラボ』と称してキャンパスでの養蜂にもチャレンジしています。私をはじめメンバーも高齢化してきたというのも、これからの課題の一つです(笑)。養蜂によるまちづくりを若者たちに知ってもらい、次世代へ引き継いでほしいと願っています」
最後にこれからの活動に懸ける思いを伺うと、こう答えてくれました。
「私の原点は、やっぱり『まちづくり』です。まちの魅力は決して建物や街並みだけでは語り尽くせません。そこで暮らす人、働く人がいて、豊かなコミュニティがあることが魅力です。『さっぱち』の活動を全国へ、そして次世代へと広げることで、こんなすてきなコミュニティのある札幌は良いまちだなあ…と思っていただけるとうれしいですね」

NPO法人サッポロ・ミツバチ・プロジェクト

2010年に札幌市で設立し、都市型養蜂事業をスタート。採蜜日ごとに札幌産のはちみつを採取・販売する他、はちみつを使用した商品の開発、養蜂の普及活動、市民向けのワークショップなどを展開し、市民主体のまちづくりを目指している。
札幌市中央区南4条東2丁目12 川村ビル4階
https://www.sappachi.com/

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