「お一人様専用」のブックカフェで本を通じて、自分を取り戻す時間を。「本と喫茶 NOMAD BOOKS」
2025年10月13日 公開
2025年5月にオープンした「お一人様専用」のブックカフェ「本と喫茶 NOMAD BOOKS」が注目を集めています。店主の森田千琴(ちこと)さんに、開業に至る道のりや店に懸ける思いを伺いました。
本との出合いが
心の支えになった幼少期
個性豊かな店が建ち並ぶ札幌市電「西線6条」駅付近、緑色の外壁が目を引く小さな建物が「NOMAD BOOKS」です。店内には人文・社会学系の本、詩集や美術書、個人制作のZINEなどが整然と並んでいます。更に店の奥、アーチ型の開口部を抜けた先の部屋が「お一人様専用」の喫茶室です。一歩足を踏み入れると、小さな音で流れるピアノやビンテージ家具の置かれたしつらえに、そっと心が静まります。
「『自分と向き合う静寂の場』というコンセプトで一人の時間に没入できる空間づくりを意識しています。買った本やご持参された本、喫茶室にある本を読んでいただいても構いません」
そう説明してくれた森田さんに、開業までの道のりを伺っていきます。読書好きな母親の影響で、物心付いたころから本が大好きだったという森田さん。中学生のころに詩と出合い、詩人・銀色夏生の写真詩集を「お守り」のように鞄に入れて登校していたそうです。
「詩集と出合ったことで、本は言葉によって新しい世界を見せてくれるのだと実感して。学校で教えられる『明るく元気に』『みんなと仲良く』が苦手で、周囲から変わり者扱いをされていた私にとって、作家や詩人は心の理解者のような存在でした」
高校生のころには本に携わる仕事への夢を抱いた森田さんでしたが、周囲からの「大変だよ」の声であきらめ、地元の大学へと進学します。
「東京の大学で文学を専門に学びたかったんですが、当時は親や周囲の期待に応えたい、安心させたいと思うあまり、自分の考えや夢を押し沈めてしまって…。でも頑張るほど、どんどん本当の自分から離れていってしまうような感覚でした」
「『自分と向き合う静寂の場』というコンセプトで一人の時間に没入できる空間づくりを意識しています。買った本やご持参された本、喫茶室にある本を読んでいただいても構いません」
そう説明してくれた森田さんに、開業までの道のりを伺っていきます。読書好きな母親の影響で、物心付いたころから本が大好きだったという森田さん。中学生のころに詩と出合い、詩人・銀色夏生の写真詩集を「お守り」のように鞄に入れて登校していたそうです。
「詩集と出合ったことで、本は言葉によって新しい世界を見せてくれるのだと実感して。学校で教えられる『明るく元気に』『みんなと仲良く』が苦手で、周囲から変わり者扱いをされていた私にとって、作家や詩人は心の理解者のような存在でした」
高校生のころには本に携わる仕事への夢を抱いた森田さんでしたが、周囲からの「大変だよ」の声であきらめ、地元の大学へと進学します。
「東京の大学で文学を専門に学びたかったんですが、当時は親や周囲の期待に応えたい、安心させたいと思うあまり、自分の考えや夢を押し沈めてしまって…。でも頑張るほど、どんどん本当の自分から離れていってしまうような感覚でした」
挫折を経て見つけた
自分で決めることの大切さ
大学卒業後は国家公務員の職に就いた森田さん。しかし3年目を迎えると、適応障害の診断を受け、休職することとなってしまいます。
「自分の考えよりも常に人の意見を優先してきた私にとって、自ら行動することが極端に苦手でした。意見を求められても答えられないし、考えが浮かんでも間違えている気がしてのどの奥に引っ込めてしまう…そんな自分の癖に気付いてしまったんです」
自らを見つめ直した森田さんは「自分で決める練習」をしようと決意。過去にあきらめたことへの挑戦を重ねる中で「たとえ失敗しても自分が決めて進んだ道なら後悔しない」と発見したのだそう。2022年には、自分に合った仕事を見つけたいと思い、京都芸術大学通信教育部の空間演出デザイン学科に編入します。
「実際に勉強してみると細かい数字が苦手な私には全く向いていない世界で…(笑)。ですが志を同じくする仲間たちと出会って、自分のアイデアを『面白い』と肯定してくれる存在が現れたことで、次第に自信が付き自分の意見を言えるように変化していったんです」
同年、森田さんは旅先で偶然立ち寄った名古屋市の書店で運命的な本との出合いを果たします。西村佳哲さんの著書「自分をいかして生きる」です。
「仕事を選ぶ時に一番大切なことは、どの職業に就きたいかではなくて、どのように生きていきたいのか、ということが書かれていてハッとしたんです。私はインテリアや設計の仕事がしたいわけじゃなくて、安心していられる居場所をつくりたかったんだと、そう気付きました」
迎えた卒業制作で森田さんが作ったのは、ブックカフェの設計図。これが、現在の「NOMAD BOOKS」開業へとつながりました。
「自分の考えよりも常に人の意見を優先してきた私にとって、自ら行動することが極端に苦手でした。意見を求められても答えられないし、考えが浮かんでも間違えている気がしてのどの奥に引っ込めてしまう…そんな自分の癖に気付いてしまったんです」
自らを見つめ直した森田さんは「自分で決める練習」をしようと決意。過去にあきらめたことへの挑戦を重ねる中で「たとえ失敗しても自分が決めて進んだ道なら後悔しない」と発見したのだそう。2022年には、自分に合った仕事を見つけたいと思い、京都芸術大学通信教育部の空間演出デザイン学科に編入します。
「実際に勉強してみると細かい数字が苦手な私には全く向いていない世界で…(笑)。ですが志を同じくする仲間たちと出会って、自分のアイデアを『面白い』と肯定してくれる存在が現れたことで、次第に自信が付き自分の意見を言えるように変化していったんです」
同年、森田さんは旅先で偶然立ち寄った名古屋市の書店で運命的な本との出合いを果たします。西村佳哲さんの著書「自分をいかして生きる」です。
「仕事を選ぶ時に一番大切なことは、どの職業に就きたいかではなくて、どのように生きていきたいのか、ということが書かれていてハッとしたんです。私はインテリアや設計の仕事がしたいわけじゃなくて、安心していられる居場所をつくりたかったんだと、そう気付きました」
迎えた卒業制作で森田さんが作ったのは、ブックカフェの設計図。これが、現在の「NOMAD BOOKS」開業へとつながりました。
多くの縁に支えられた
居場所づくりの実現
店づくりでは知人の紹介で大工さんとつながったり、古本市で出会ったデザイナーにロゴ制作を依頼したりと、不思議なほど人とのつながりに恵まれたと振り返る森田さん。
「この物件も、元上司の紹介で訪れたら偶然にもお店を移転するとのことで、譲渡してもらった場所なんです。『本屋を開くんです』と夢を口に出すようになってから、驚くほど円滑に事が進んでいきました」
店名の由来は遊牧民を表す「ノマド」から。豊かな草を求めて移動するように、ここで新たな世界を知ってほしいという願いを込めて名付けたそうです。
「人とかかわるのが苦手だった私にとって、静かな図書室で一人、本と向き合うのはとても気持ちが和らぐ時間でしたし、自分と向き合うきっかけにもなれた。あの体験を訪れる人に提供したいと思ったんです。オープンして以降、お客様からは『久しぶりに一人の時間が持てた』『自分をいたわることが出来た』とありがたい言葉を頂き、その度に店を開いて良かったと実感しています」
先日にはご自身をはじめ、仲間たちのエッセイを集めたZINE「漂流書簡」を自らの手で編集し、発行しました。今後はこうした書籍の編集の発信拠点、更に交流の場としても活用したいと語ります。
「文章を書くことは読書と同じく、自分を見つめることだと思うんです。この場所が、過去の自分のように悩んでいる人たちにとって安心できる居場所になればと、そう願っています」
「この物件も、元上司の紹介で訪れたら偶然にもお店を移転するとのことで、譲渡してもらった場所なんです。『本屋を開くんです』と夢を口に出すようになってから、驚くほど円滑に事が進んでいきました」
店名の由来は遊牧民を表す「ノマド」から。豊かな草を求めて移動するように、ここで新たな世界を知ってほしいという願いを込めて名付けたそうです。
「人とかかわるのが苦手だった私にとって、静かな図書室で一人、本と向き合うのはとても気持ちが和らぐ時間でしたし、自分と向き合うきっかけにもなれた。あの体験を訪れる人に提供したいと思ったんです。オープンして以降、お客様からは『久しぶりに一人の時間が持てた』『自分をいたわることが出来た』とありがたい言葉を頂き、その度に店を開いて良かったと実感しています」
先日にはご自身をはじめ、仲間たちのエッセイを集めたZINE「漂流書簡」を自らの手で編集し、発行しました。今後はこうした書籍の編集の発信拠点、更に交流の場としても活用したいと語ります。
「文章を書くことは読書と同じく、自分を見つめることだと思うんです。この場所が、過去の自分のように悩んでいる人たちにとって安心できる居場所になればと、そう願っています」
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