千葉さんのご出身は紋別市。株式会社よびもりは2019年、彼が九州大学大学院在学中に、仲間と共に3人で立ち上げた会社だ。海難事故が起きたことをいち早く知らせるための携帯型発信機と、それに連動するアプリを同名のサービスとして提供している。
「『よびもり』はSOSが発信された瞬間から、事故に遭った個人の居場所をGPSを通じて特定します。周囲の漁師や家族がアプリを通じて信号を受信し、すぐに救助に駆け付けられるという仕組みです。これまでも船そのものには遭難信号を発する装置が付いていましたが、個人で使えるものは存在していませんでした。漁業中の転落事故や、小型ボートでの遭難といった悲劇を防ぐために、個人で使えるサービスを作りたいと考えたんです」
誕生するきっかけとなったのが、幼いころに母や祖母から聞いた亡き祖父の話だ。
「僕の祖父は羅臼町の漁師で、漁に出たまま未だに行方不明、遺体も見つかっていないんです。どこで、どのようにして事故に遭ったのかもわかりません」
実は海難事故で人が行方不明になった場合は最大で7年間、死亡認定が下りず、その間家族は保険金をもらうこともできない。精神的なつらさと同時に、経済的にも救いのないまま取り残されることになるのだと、千葉さんは話す。
「当時は母が生まれて間もないころで、祖母は経済的にもとても苦労したそうです。何年たっても『祖父は生きているかもしれない』と話す祖母や母を見て育ったからこそ、同じ思いを誰にもしてほしくない。この問題に取り組むのは、自分の使命だと思い至ったんです」