北海道発!商品誕生エピソード 北海道発!商品誕生エピソード【日本古来の伝統に北海道らしさを取り入れた蝦夷和紙/蝦夷和紙工房 紙びより(札幌市)】

2020年11月30日 公開

日本古来の伝統として、1500年以上の歴史を持つ和紙。その本場・福井県で技術を学び、札幌に工房を開いたのが東野早奈絵(とうのさなえ)さんです。北海道の人にもっと和紙に親しんでほしいと、北海道の植物を原料に取り入れたり、雪原の風景を表現した作品作りに取り組んでいます。

いつも生活に寄り添う「紙」作りへの興味。

蝦夷和紙工房 紙びより
和紙職人・和紙作家
東野早奈絵さん

子どもの頃から物作りが好きで、同時に植物や昆虫も大好きだったという東野さん。大学で理科と美術の教員資格を取得し、道内の中学校や養護学校で先生として活躍した経歴を持ちます。6年間にわたって〝教える立場〟からアートや物作りに携わるうちに「実際に物を作り、届ける仕事をしたい」という思いが強くなったことから転職を決意。大学時代に版画、粘土、木工などを一通り学んだ経験を持つ東野さんが、最終的に選んだのは和紙職人への道でした。
「紙はいつでも身近にあり、手紙を書いたり折り紙をしたり、自分にとって大切な存在でした。ところがその〝紙〟を作ったことはなく、作り方さえ知りませんでした。図書館でいろいろと調べるうちに改めて和紙の素晴らしさを知り、日本人として、和紙作りに携わってみたいと思うようになったのです」

越前和紙の産地を訪れ和紙作り工房に入門。

とはいえ和紙工房の求人はまれで、職人への道は狭き門です。東野さんは和紙産地のなかでも特に名高く、長い歴史を持つ〝越前和紙〟の産地・福井県越前市を訪れ職人さんに技術を身につける方法を尋ねたり、伝統芸能継承のために福井県が実施する「匠育成プロジェクト」に何度も参加するうちに、ついに工房への入門を果たすのです。初日から「先輩の仕事を見て学べ」と言われ、用具の洗浄や〝布(きれ)引き〟と呼ばれる補助的な作業からスタート。90代女性を筆頭とする先輩職人たちに付いて修業の毎日が始まりました。
「和紙をはじめ、陶芸や漆器、刃物、織り物、眼鏡など、福井県は物作りが盛んな地域であり、誇り高い職人の町です。同時に女性の力が強いのも特徴で、越前和紙でもメインの工程となる紙漉きは女性の仕事で、男性は乾燥や釜焚き担当というのが一般的です。長寿の町としても知られ、高齢の方々が現役で活躍していることにも驚きました」
福井での紙作りに一生をかけることを決意し、日本古来の伝統文化を体感する生活を送っていた東野さん。ところが5年がたった頃、家族が体調を崩したことなどをきっかけに故郷である札幌に戻ることに…。そうして2012年にオープンしたのが『蝦夷和紙工房 紙びより』だったのです。

北海道の人にもっと和紙の魅力を伝えたい!

和紙の主原料となるコウゾは自生せず、冬には水が凍結し紙作りに不向きな北海道。和紙への馴染みも深くありません。「どうすれば北海道の人に和紙に親しんでもらえるだろうか」と考えた東野さんは、北海道の植物を原料の一部に取り入れたり、雪国の風景を取り入れることを考えます。ニレやシラカバ、フキ…。さまざまな植物で試行錯誤を重ねSNSで取り組みを発信し続けるうちに、東野さんの活動を見守る方や実際に紙漉きを体験した方から「この木がこんな紙になるんだ!」と興味津々のコメントが続々と寄せられます。
「私が職人目線で白さや滑らかな質感を追求しがちだったのに対し、皆さんからいただいたのは、それぞれの植物が醸し出す独特の風合いや色合いを楽しむコメント。個性あるテクスチャーを生かすことを考えるようになっていきました。そうして誕生したのが、工房の名前にも冠している『蝦夷和紙』でした」
東野さんの和紙は〝北海道だからこそ”が結晶したオンリーワン。枝の皮剥きや原料の栽培などにSNSで協力者を募ったり、ワークショップを開催したり…。東野さんは一人でも多くの方に紙作りに触れてもらい、その奥深さや魅力を感じてもらえるよう、さまざまな活動を推し進めています。
「ソーシャルディスタンスやペーパーレスが話題になる時代だからこそ、手作りの和紙に手書きで送るメッセージは人の心をより暖めてくれるはず。グンと長くなった『おうち時間』のなかに、携わった人の心がこもるこの和紙を取り入れていただけたらうれしいです」

ここがこだわり!開発のポイント

北海道に自生する植物を原料に
アイヌ民族が樹皮衣(アトゥシ)の材料としたオヒョウニレやハルニレ、ラワンブキなど北海道ならではの原料も積極的に取り入れます。
一枚一枚手作り。豊かな表情が魅力
すべての工程が心のこもった手作業。漉き込んだ素材の繊維の出方、色の現れ方など、一枚一枚異なる
表情も魅力です。
みんなで作る「プロジェクト」も
工房では、SNSを中心に参加者を募る「蝦夷和紙プロジェクト」をはじめ、原料の加工や栽培などを通じて、和紙を身近に感じるための活動にも取り組んでいます。参加者の声が次の作品作りに取り入れられることも!

蝦夷和紙工房 紙びより

伝統的製法を守りつつ北海道らしさを取り込む手漉き和紙工房。カード類のほか大判和紙やインテリア製作も。オーダーも応談。
札幌市厚別区厚別北3条5丁目33-5
TEL.011-891-8424
工房営業/10:00〜17:00、月曜〜日曜(水曜定休)
ショップ営業/10:00〜17:00、木曜〜日曜、祝日(臨時休業有)
https://ameblo.jp/kamibiyori/

北海道発!商品誕生エピソード

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